
SOGIハラとは?アウティングのリスクと企業が取り組むべき対策を解説
SOGIハラとは、性的指向(Sexual Orientation)やジェンダーアイデンティティ(Gender Identity)に関して、差別的・侮辱的な言動をしたり、本人の同意なく第三者へ情報を伝えたりする行為などを指す一般的な呼称です。SOGIはLGBTQなど特定の人だけに関わる概念ではなく、すべての人が持つ属性です。職場では、SOGIに関する侮辱的言動やアウティングがパワハラに該当する場合があり、2026年10月からは開示の強要・禁止についても指針上の位置づけがより明確になります。本記事では、具体例、関連法制度、企業のSOGIハラ対策、相談対応の注意点まで解説します。
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SOGIハラとは
SOGI(性的指向・ジェンダーアイデンティティ)の意味
SOGIとは、「Sexual Orientation(性的指向)」と「Gender Identity(ジェンダーアイデンティティ)」の頭文字を組み合わせた言葉です。
「性的指向」は、恋愛感情や性的感情がどの性別に向くかという指向を指します。「ジェンダーアイデンティティ」は、自分自身の性別をどのように認識しているかに関する意識です。性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進法でも、それぞれについて定義が置かれています。(※1)
一方、「SOGIハラ」は法律上の正式な名称ではありません。一般には、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する差別的な言動、侮辱、本人が望まない情報開示などによって相手を傷つけたり、就業環境を悪化させたりする行為を指して用いられています。
厚生労働省は、性的指向や性自認に関する侮辱的な言動や、本人の了解を得ずに情報を暴露する「アウティング」について、パワーハラスメントに相当したり、事案によってはセクシュアルハラスメントに相当したりする場合があると説明しています。(※2)
職場でSOGIハラに該当し得る言動
SOGIハラは、必ずしも露骨な差別発言だけを指すものではありません。
例えば、性的指向について侮辱的な言葉を使うこと、「男性なのだからもっと男らしくすべきだ」などと性別に関する固定観念を押しつけること、本人が周囲に伝えていない性的指向やジェンダーアイデンティティを勝手に同僚へ伝えることなどが考えられます。
また、職場で本人に対して「あなたは同性が好きなのか」「本当の性別はどちらなのか」などと、業務上必要のない質問をするケースにも注意が必要です。
重要なのは、SOGIに関する情報が極めて機微な個人情報であるという点です。本人が誰に、いつ、どこまで伝えるかは本人自身が決めるべき事項であり、会社や上司が本人の意思を飛び越えて決めるべきものではありません。
そのため企業では、単に「差別的な言葉を使わない」というルールにとどめず、「聞き出さない」「勝手に広めない」「開示を迫らない」という3つの視点まで含めてSOGIハラ対策を考えることが有効です。
LGBTQだけの問題ではない理由
SOGIという言葉を聞くと、LGBTQなど性的マイノリティの人だけに関係する問題だと考える人もいるかもしれません。しかし、SOGIは特定の人だけが持っている属性ではありません。
性的指向もジェンダーアイデンティティも、すべての人に関係する概念です。
例えば、異性に恋愛感情を持つ人にも性的指向があります。出生時に割り当てられた性別と自身のジェンダーアイデンティティが一致している人にも、ジェンダーアイデンティティがあります。

企業としては、「誰にでも性的指向やジェンダーアイデンティティがあり、それを理由に尊厳を傷つけられない職場をつくる」という視点で捉えることで、「LGBTQの人を特別に扱うための研修」ではなく、一人一人が当事者であることが伝わります。
職場で起こりやすいSOGIハラの具体例
性的指向・性自認に関する差別的な言動
SOGIハラの具体例として、まず挙げられるのが、性的指向やジェンダーアイデンティティを理由に相手を侮辱したり、からかったりする言動です。
例えば、本人や特定の人を指して差別的な呼称を使う、性的指向を笑いの材料にする、「そういう人とは一緒に仕事をしたくない」と発言する、といったケースです。
2026年10月1日適用予定の改正パワーハラスメント指針では、「精神的な攻撃」に該当すると考えられる例として、人格を否定するような言動を行うことが示され、その中には相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動も含まれることが明記されています。(※3)
ただし、個別の言動が法的なパワーハラスメントに該当するかどうかは、パワハラの3要素を満たすかなど、具体的な状況を踏まえて判断されます。「SOGIに関する不適切な発言=必ずパワハラ」と決めるものではありません。
それでも、企業の予防策としては「法的にパワハラと認定されるか」という最低ラインだけで考えないことが重要です。差別的な冗談やからかいが常態化すれば、本人が相談できなくなったり、職場への信頼を失ったりする可能性があります。
本人の同意なく情報を明かす「アウティング」
SOGIハラを考えるうえで、企業が特に理解しておきたいのが「アウティング」です。
アウティングとは、本人の性的指向やジェンダーアイデンティティなどについて、本人の了解を得ずに第三者へ伝えることを指します。
例えば、ある従業員が上司にだけ「同性のパートナーがいる」と相談したにもかかわらず、上司が本人に確認せず、部署内の管理職や同僚にその情報を共有するケースが考えられます。
本人への配慮を目的としていたとしても、「良かれと思って」という理由だけで共有してよいわけではありません。
パワハラ防止指針では、労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティなどの機微な個人情報について、本人の了解を得ずに他の労働者へ暴露することは、「個の侵害」に該当すると考えられる例として示されています。一方、本人の了解を得たうえで、必要な範囲に限って人事労務部門の担当者へ伝え、配慮を促すことは、該当しないと考えられる例として整理されています。(※3)
この違いから、企業が実務で押さえたいポイントが見えてきます。
「配慮のために情報共有する必要がある」と考えたときほど、まず本人に確認することです。
誰に伝えるのか、何を伝えるのか、何のために伝えるのか。この3点を本人と確認してから共有することで、支援とプライバシー保護を両立しやすくなります。
カミングアウトを強要する・妨げる言動
カミングアウトとは、自身の性的指向やジェンダーアイデンティティについて、自らの意思で他者へ伝えることをいいます。
職場では、本人が望まないにもかかわらず「部署のみんなに説明した方がいい」「会社として対応するために公表してほしい」などと開示を迫ることは避けなければなりません。
反対に、本人が必要な範囲で伝えたいと考えているにもかかわらず、「職場が混乱するから誰にも言ってはいけない」と一律に禁止することにも注意が必要です。
2026年10月1日適用予定の改正パワハラ防止指針では、性的指向・ジェンダーアイデンティティなどの機微な個人情報について、本人の了解なく暴露することに加えて、本人が情報を開示することを禁止したり、開示を強要したりすることも、「個の侵害」に該当すると考えられる例として明確化されています。(※3)
本人の情報を「守ること」と「本人の意思決定を奪うこと」は同じではありません。
企業が取るべき基本姿勢は、「会社が開示するかどうかを決める」のではなく、本人の意思を確認したうえで、職場で必要な配慮を一緒に考えることです。
SOGIハラに関する法制度と企業の責任
理解増進法と企業に求められる理解促進
2023年に、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」、いわゆる理解増進法が施行されました。
同法は、性的指向やジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないとの認識の下、互いに人格と個性を尊重しながら共生する社会を目指すことを基本理念としています。(※1)
企業に関しては、従業員が性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性について理解を深められるよう、情報提供、研修、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備など、必要な措置を講ずるよう努めることが定められています。(※1)
そのため、企業のSOGIハラ対策は「問題が起きたら対応する」という受け身の仕組みだけでは不十分です。
日頃から従業員の理解を促し、相談できる体制を整え、不必要な差別や偏見が職場に入り込まないようにする予防的な取り組みが重要になります。
パワハラ・セクハラ防止指針との関係
SOGIに関する問題は、状況によって既存のハラスメント防止法制の対象にもなります。
厚生労働省のパワハラ防止に関する情報では、性的指向・性自認に関する侮辱的な言動や、本人の了解を得ないアウティングについて、パワーハラスメントに相当したり、事案によってはセクシュアルハラスメントに相当したりする場合があることが示されています。(※2)
また、セクシュアルハラスメントは異性間だけの問題ではありません。2026年10月1日適用予定のセクハラ防止指針でも、同性に対するものを含み、被害者の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず対象となることが明示されています。(※4)
企業側には、パワハラ・セクハラについて方針を明確にし、相談窓口を整備し、相談があった場合には事実関係を迅速かつ正確に確認し、必要な措置や再発防止策を取ることが求められています。(※3)(※4)
SOGIハラ対策を別枠の施策として孤立させるのではなく、既存のハラスメント防止体制に組み込むことがポイントになります。
2026年10月の指針改正で企業が確認したいポイント
2026年8月時点では、10月1日から適用される改正指針が公表されています。
SOGIハラとの関係で特に確認したい変更は、パワハラ防止指針の「個の侵害」の例です。本人の了解なく性的指向・ジェンダーアイデンティティを暴露することに加え、本人による開示を「禁止する」「強要する」行為が例示されています。(※3)
企業では施行を待ってから対応を始めるのではなく、現在の社内ルールを次の観点から確認しておくとよいでしょう。
第一に、ハラスメント規程や研修資料に、アウティングだけでなく、開示の強要・禁止についても説明があるか。
第二に、管理職が従業員からSOGIについて相談を受けた際、「人事に共有します」と自動的に情報を流す運用になっていないか。
第三に、相談担当者が本人の情報開示の範囲を確認する手順を持っているかです。
SOGIハラ対策では、禁止行為を増やすだけでは十分ではありません。「本人の選択権を尊重する」という共通原則を、規程・研修・相談対応に一貫して反映させることが重要です。
SOGIハラ対策として企業ができること

方針・ルールを明確にして周知する
SOGIハラを防止するには、まず会社の方針を明確にすることが必要です。
「性的指向やジェンダーアイデンティティを理由とする差別的な言動を認めない」「本人の了解なく機微な情報を第三者へ共有しない」といった基本方針を、就業規則やハラスメント方針、社内ガイドラインなどに反映します。
ここで大切なのは、「SOGIハラは禁止」と記載するだけではなく、従業員が行動に置き換えられるレベルまで具体化することです。
企業独自の整理方法として、SOGIに関する情報を扱うときには、「聞く・伝える・決める」の3つの場面で本人の意思を確認すると考えると分かりやすくなります。
「聞く」は、会社や上司が本人にSOGIに関する情報を尋ねる際、その質問が本当に業務上必要かを確認することです。「伝える」は、本人から得た情報を上司や人事、同僚などに共有する際、本人の同意を得ているかを確認することです。「決める」は、誰にどこまで情報を開示するかを、会社が本人の意向を確認せず一方的に決めていないかを確認することです。
この3点を共通ルールにすると、管理職や人事が実務で判断しやすくなります。
管理職・従業員への研修を行う
SOGIハラ対策では、用語を覚えるだけの研修よりも、職場で起こり得る具体的な場面から考える研修が有効です。
例えば、「部下から同性パートナーについて相談された」「トイレや更衣室について相談を受けた」「同僚から別の社員の性的指向について聞かれた」といったケースを取り上げ、どこまで聞くのか、誰に共有するのかを考えます。
特に「本人を支援するためなら共有してよい」という思い込みへの注意が必要です。本人が相談した相手だからといって、他者への共有まで許可したとは限りません。
また、研修の対象を管理職だけに限定せず、一般従業員にもSOGIに関する基礎知識やアウティングのリスクを伝えることが重要です。日常の何気ない雑談や冗談が、本人の相談しにくさにつながることもあるからです。
制度・設備を含めて働きやすい環境を整える
SOGIへの配慮は、ハラスメント防止研修だけで完結するものではありません。
例えば、社内申請書で不要な性別欄を設けていないか、福利厚生制度で同性パートナーをどのように扱うか、通称名を利用できる仕組みがあるかなど、制度面も確認できます。
トイレや更衣室、制服などについて相談があった場合も、特定の対応を一律に押しつけるのではなく、本人の希望と職場の状況を確認しながら検討することが重要です。
すべての企業が同じ設備や制度を導入することが正解というわけではありません。
大切なのは、「相談があったときに個別に検討できる仕組みがあるか」です。
SOGIハラ対策を、単なるコンプライアンス対応ではなく、従業員が安心して働くための職場環境づくりとして捉えることが求められます。
SOGIハラの相談を受けたときに注意したいこと
本人の同意なく情報を共有しない
SOGIに関する相談で最も慎重に扱いたいのが情報共有です。
相談を受けた管理職が、「これは人事にも知らせた方が本人のためになる」と考えることもあるでしょう。しかし、その前に本人の意向を確認する必要があります。
単に「人事に共有してよいか」ではなく、「職場の配慮を検討するため、人事の○○担当者にこの部分を伝えたい」と、目的・相手・情報の範囲を具体的に説明することが望まれます。本人が共有を希望しない場合でも、情報を開示せずにできる支援がないか一緒に考えます。
なお、生命・身体への差し迫った危険などがある場合には別の判断が必要になることがあります。判断に迷う場合は、本人への説明とプライバシーへの配慮を前提に、産業保健スタッフや専門家へ相談することが考えられます。
相談担当者にもSOGI・アウティングへの理解を促す
相談窓口を設置していても、担当者がSOGIについて十分に理解していなければ、相談そのものが二次的な被害(セカンドハラスメント)につながる可能性があります。
例えば、「いつからそうなったのですか」「家族は知っていますか」といった、相談解決に必要のない質問は相手を傷つける可能性があります。
相談担当者は、まず何に困っているのかを確認します。
「同僚の発言を止めてほしい」「上司への情報共有は望んでいない」「制度上の配慮について相談したい」など、本人が求めているものはケースによって異なります。
そのうえで、相談内容、本人が希望する対応、共有してよい情報の範囲を確認します。
相談担当者に必要なのは、本人のSOGIを「詳しく知ること」ではありません。本人が職場で何に困っており、どのような支援を求めているかを理解することです。
社内外の相談窓口やEAPを活用する
SOGIに関する悩みは、ハラスメントだけに限りません。
職場で自分らしく振る舞えないことへのストレス、家族やパートナーとの関係、周囲への開示に関する迷いなど、仕事と私生活の双方にまたがることがあります。
社内相談窓口だけで対応するのが難しい場合には、EAPなど外部の相談窓口を活用する方法もあります。
外部相談窓口を用意することには、社内では話しにくい内容について相談先の選択肢を増やせるという利点があります。一方で、外部窓口を設置しただけでSOGIハラ対策が完成するわけではありません。
相談内容から職場環境の課題が見えてきた場合には、個人を特定しない形で相談傾向を把握し、研修や社内制度の改善につなげる視点も必要です。
個人への支援と組織への予防策を両輪で進めることが、継続的なSOGIハラ対策につながります。
よくある質問
Q1.SOGIハラは法律で禁止されているのですか?
A.「SOGIハラ」という名称の独立した法律があるわけではありません。ただし、性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動やアウティングなどは、具体的な状況によってパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントに該当する場合があります。事業主には、それぞれの法令に基づくハラスメント防止措置が求められます。(※2)(※3)
Q2.本人から相談された内容を人事に伝えるのもアウティングになりますか?
A.本人の了解なく性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する情報を他の労働者へ暴露することは、パワハラ防止指針上、「個の侵害」に該当すると考えられる例です。一方、本人の了解を得たうえで、必要な範囲で人事担当者へ情報を伝え、配慮を促すことは、該当しないと考えられる例として示されています。(※3)
Q3.職場で本人にカミングアウトを勧めても問題ありませんか?
A.本人に選択肢を説明することと、開示を強要することは異なります。2026年10月1日適用予定の改正パワハラ防止指針では、本人が性的指向・ジェンダーアイデンティティなどの情報を開示することを禁止したり、強要したりすることが「個の侵害」に該当すると考えられる例として明確化されています。(※3)
Q4.LGBTQの従業員がいない会社でも研修は必要ですか?
A.「LGBTQの従業員がいない」と企業側が判断すること自体が難しいといえます。また、SOGIはすべての人に関係する概念です。理解増進法では、事業主に対し、従業員の理解を深めるための情報提供、研修、普及啓発、相談体制の整備などに努めることが定められています。(※1)
Q5.SOGIハラ対策として最初に何から始めればよいですか?
A.まず、既存のハラスメント方針・相談窓口でSOGIに関する相談を扱えるかを確認するのがおすすめです。そのうえで、アウティングや開示の強要・禁止を含む具体例を社内ルールや研修へ反映し、相談担当者にも情報管理のルールを共有するとよいでしょう。
まとめ
SOGIハラとは、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動や差別的な扱い、本人の了解を得ないアウティングなどを指して使われる一般的な呼称です。
企業が理解しておきたいのは、SOGIがLGBTQなど特定の人だけの問題ではなく、すべての人に関係する概念であることです。
また、SOGIハラ対策では「差別発言をしない」というだけでなく、本人の情報を聞く・伝える・決める場面で、その意思を尊重する視点が重要です。
2026年10月1日適用予定の改正パワハラ防止指針では、性的指向・ジェンダーアイデンティティに関するアウティングに加え、本人による情報開示を禁止したり強要したりすることについても、「個の侵害」に該当すると考えられる例として明確化されます。
企業は、方針の整備、研修、制度・環境面での配慮、相談窓口の整備を一体的に進めることが大切です。SOGIに関する問題が起きてから対応するのではなく、本人が安心して相談でき、必要な配慮を本人と一緒に考えられる職場づくりが、SOGIハラの予防につながります。












