

この記事のトピック
「答えをAIが出せる時代だからこそ、私たち人間が投げかけるべき『問い』とは何なのか――」
この本質的な問いに対し、今回は新卒営業からマネジメントに15年以上携わり、現在は経営の立場から組織課題に向き合う宮武が執筆しました。
時代とともにマネジメントの葛藤を自身で経験してきた彼が、過去の営業メソッドをAI時代へどう進化させるかを紐解きます。「人文知」の視点から紐解く「人を理解する力」と、これからのリーダーが目指すべき「安心して挑戦できる職場づくり」のヒントをお届けします。
かつての私は、いわゆる昭和的な働き方を経験しました。
とにかく数字を追い、長時間労働が当たり前とされる環境でした。
当時はそれを「成長の挑戦」と捉え、夢中で駆け抜けていましたが、
今振り返れば、決して持続可能な働き方とは言えません。
一方で、若き日にそうした濃密な時間を過ごし、必死に食らいついた経験は、私の血肉になっています。
ビジネスパーソンとしての基礎体力や、泥臭く課題に向き合う姿勢を養うための、私にとって必要な学びの時間でもありました。
だからこそ、過去のやり方をすべて否定するつもりではありません。
しかし、マネジメントの現場で長く試行錯誤する中で、一つの確信を持つようになりました。
数字とは「結果」であり、組織の状態を映し出す「鏡」であるが、働く目的そのものではない、ということです。
売上や受注件数といった数字は、組織の現在地を映す指標として大変重要です。
だからこそ大切なのは、数字を追いかけるにあたり、経営層から現場までが「何を成果と定義するのか」の認識を共有し、管理職が一人ひとりのメンバーと丁寧に目線を合わせることではないでしょうか。
管理職になってから、同じ商品を、同じような条件で営業しているにもかかわらず、なぜ成果を出し続けるチームと、そうでないチームがあるのかを考えるようになりました。
その違いの根源にあるのは、市場環境や競合といった要因だけでは説明しきれない「組織の温度感」のようなものではないかと考えています。
メンバー同士の信頼関係、安心して意見を言える心理的安全性、失敗を恐れず挑戦できる文化。数字の違いは、こうした組織の状態の違いともつながっているのです。
数字という結果の向こう側にある、信頼関係や対話の質に目を向けること。
そこから組織づくりを考えることが、結果として数字を変えていくことにつながります。

多くの人事担当者とお話しする中で、管理職の方々の苦悩を耳にする機会は年々増えています。
「部下との距離感が分からない」
「注意してハラスメントと言われるのが怖い」
「何度伝えても動いてくれない」
そんな現場の声を耳にするのは珍しくありません。
この問題を管理職個人の力量だけに帰してしまうと、より本質的な課題を見落とすことになるように思います。
私が感じているのは、「時代は大きく変わったにもかかわらず、マネジメントのスタンダードが変わっていない」というミスマッチです。
大切なのは、その経験から何を残し、今の時代に合わせてどのように変えていくか、ということだと思います。
価値観、働き方、コミュニケーション手段のすべてが劇的に変化しました。チャットやオンライン会議が普及し、対面での「言わなくても分かるだろう」という前提は崩れつつあります。
世代によって積み上げてきた経験も、大切にしてきた価値観も、それぞれに異なります。
だからこそ現代は、「なぜやるのか」「何を期待されているのか」という背景や目的を丁寧に言語化し、共有することが求められる時代です。これは、若い世代が弱くなったという話ではありません。私たちを取り巻く環境そのものが変わった、ということです。
企業が取り組むべきは、単にハラスメントのようなコンプライアンス違反を防止することだけではありません。
これまで培われてきた「熱量」や「当事者意識」といった価値を大切にしながら、今の時代に合ったマネジメントへとアップデートしていく必要があります。
また、メンバーの可能性を引き出し、仕事の意味を伝え、安心して挑戦できる環境をつくることも大切です。
人的資本経営やエンゲージメント経営が重視される今、管理職には、一人ひとりの仕事と組織の目的をつなぎ、「自分の仕事にはどんな意味があるのか」を伝える役割も求められています。
そのためには、管理職自身が「人」を理解するための視点を持つことがより重要になると考えます。
では、変化する時代の中で、人と向き合うための拠り所をどこに求めればよいのでしょうか。
私が指針の一つとして大切にしているのが、「人文知」の視点です。
哲学、歴史、文学といった人文学の知恵は、すぐさま利益を生むスキルではありません。
しかし、「人はどう考え、なぜそう行動するのか」「自分は何を大切にして判断しているのか」といった、人間や社会を捉えるための土台を与えてくれます。
例えば、指導とハラスメントの境界線のようなグレーゾーンに直面したとき、何が正しいのかを一つの答えに当てはめることが難しい場合があります。
そのとき、歴史の視点は「常識は時代とともに変わりうる」ことを教えてくれます。
哲学は「自分はなぜそう考えるのか」という前提を問い直すきっかけを与えてくれます。
そして文学は、自分とは異なる立場にいる人の感情を想像する力を育ててくれます。
人文知は、正解を教えてくれるものではありません。
むしろ、相手を単純に「分かったつもり」にならず、複雑な人間を複雑なまま理解しようとするための視点なのだと思います。
これは、これからのマネジメントにおいて、欠かせない視点です。
数字にあらわれる結果だけを見ていると、「なぜこの人は動かないのか」「なぜチームに活気が生まれないのか」という現象だけに目が向きます。
しかし、その背景には、本人の価値観や不安、期待、過去の経験、周囲との関係性など、さまざまな要素があります。
数字の向こう側にいるのは、一人ひとり異なる人間です。
だからこそ、数字を変えようとするなら、その背景にある人や組織を理解する必要があるのです。
そして、AIが急速に進化する今、この「人を理解する力」は、むしろ重要性を増していると感じます。
しかし、そのAIに問いを投げかけるのは人間です。
例えば、離職率が上がったとします。
AIに「離職率を下げる方法」を尋ねれば、多くの施策を提案してくれるでしょう。
しかし、本当に考えるべきは、「私たちは、自分たちが働き続けたいと思える組織になっているだろうか」という問いかもしれません。
何を問い、何を大切にして判断するかを決める、それは人間にしかできない営みです。
企業のビジョンを語るときも、チームの方向性を決めるときも、最後に必要なのは人間による判断です。
だからこそ、AI時代の人事や管理職に求められるのは、単に多くを知っていることではなく、
「何を大切にする組織なのか」を考え、問いを立て、対話を通じて答えをつくっていくことではないでしょうか。
そして、その問いを組織の中で共有していく。
「私たちは、どんな会社で働きたいのか」
「この仕事を通じて、誰にどんな価値を届けたいのか」
「社員一人ひとりが、自分らしく力を発揮するにはどうすればよいのか」
こうした問いを持ち続けることが、人を起点に組織をつくることにつながります。
数字は、そうした営みの結果として表れてくるものです。
だからこそ、数字を変えたいときほど、数字だけを見ない。人と組織に向き合う。
私は、それがこれからのマネジメントに必要な姿勢だと考えています。
ピースマインドという会社も、何かあったときだけの駆け込み寺ではなく、「ちょっと相談してみよう」と自然に思い出してもらえる、働く人にとって身近な社会インフラのような存在を目指しています。
リーダーとしての私の仕事は、組織が目指す未来を言葉にし、その意味を伝え、何度でも語り続けることだと考えています。
リーダーが理想を語らなくなれば、組織は目の前の数字を追うだけになってしまいます。
昭和的な働き方が当たり前だった時代から、価値観もコミュニケーションのあり方も大きく転換した現在まで、
私は数字を追いながら、その時々の「人」と向き合ってきました。
世代が変われば、大切にするものも、求められるものも変わります。
それでも根っこにあったのは、「はたらく人は、本当に幸せに働けているだろうか」という一つの問いです。
一人の人間として、自分は何のために働き、それが自分の幸せにつながっているのか。
そして経営として、働く人たちの幸せのために、事業として何ができるのか。
この二つの問いは、今の私の中で一つになっています。
完璧な答えはまだありません。それでも、この問いを持ち続け、語り続けることが、これからの組織と、これからの自分自身をつくっていく。そう信じて、私はこれからも試行錯誤していきたいと考えています。