

この記事のトピック
精神科病院で12年間臨床を重ね、現在はEAPカウンセラーとして活躍する梅田が執筆しました。
病院から企業支援の現場へ移った彼女は、「EAPだからこそできること」と「産業領域ならではの難しさ」を感じたといいます。
「明日から何を変えられるか」にフォーカスする短期解決型アプローチと、
個人と組織の間に立って問題の絡まりを解きほぐしていく役割を、具体的な相談事例を交えて紐解きます。
EAPを「不調になってから使う場所」ではなく、「大きく崩れる前に立ち止まる場所」へ。
個人と組織の双方を活かすための仕組みと、誰もが安心して働ける職場の共創に向けて、
彼女が現場での経験を通して何を考え、大切にしているのか。そのリアルな想いをお届けします。
「上司に相談するほどではないと思っていました」
「会社の人に話したら、評価に影響する気がして……」
「正直、こんなことで悩んでいると思われたくなかったんです」
これは、EAP(従業員支援プログラム)のカウンセリングで、実際によく耳にする言葉です。ご自身ではどうしたらいいかわからず抱え込んでしまう、でも社内では相談しづらいという時にEAPに繋がっていただくことは実際多いのではと感じています。
一方で人事担当者の方からは、
「相談窓口は導入しているけれど利用が進まない」
「カウンセリングで何をしているのか社内に説明しづらい」
「そもそもどんな時に役立つのかよく分からない」
というご相談をいただくことがあります。
まだまだEAPカウンセリングでどんなことをするのか、どんな風に役立つのか、イメージしにくいこともあるのではないかと思います。
私は精神科病院で約12年間カウンセラーとして勤務した後、EAPカウンセラーとして企業で働く方々の支援に携わってきましたが、同じカウンセリングでも、産業領域には独特の役割や価値があると感じています。
今回は、相談事例でEAPカウンセリングでどんなことをしているのかをみながら、EAPの役割やEAP独自の特徴についてお伝えしたいと思います。

ある日、AさんがEAPに相談に来られました。
面談の中で、こんな言葉が出てきました。
「最近やる気が出なくて……」「朝起きても疲れが取れていないんです」「パソコンを開くまでは何とかできるんですが、その後が続かなくて」「午前中はぼーっとしてしまいます」
話を聞いていくと、リモートワーク中に横になってしまうことも増えているとのことでした。
こうした状態は、出勤はできているものの本来のパフォーマンスを発揮できていない状態であり、「プレゼンティーズム」と呼ばれます。
欠勤や休職のように目に見えにくいものの、企業にとっては大きな損失につながることがあると言われています。
さらに話を伺うと、
といった背景も見えてきました。
そこでまずは、
「睡眠の問題について医師へ相談してみましょう」
「職場のプレッシャーについては上司に相談する方法を一緒に考えてみませんか」
と整理を進めました。
その後の面談では、
「考え続けてしまう時にどう対処するか」
「不安との付き合い方をどう変えていくか」
について具体的な方法を一緒に検討していきました。
EAPでは、過去を深く掘り下げることよりも、
「今起きている問題をどう乗り越えるか」
「明日から何を変えられるか」
に焦点を当てることが少なくありません。
限られた回数だからこそ、本人の強みや資源を活かしながら現実的な解決を目指していく。
この短期問題解決型のアプローチは、産業領域のカウンセリングならではの特徴だと感じています。

EAPの特徴は、個人を支援するだけではありません。
企業と本人の間に立ちながら、双方を支援する役割も担っています。
ある時、人事担当者からこんなご相談を受けました。
「休職から復帰予定の社員がいます」
「再休職を防ぐためにも、しっかり振り返りをしてほしい」
「感情の波が大きい印象があり、上司も受け入れに不安を感じています」
そこでBさんとの面談が始まりました。
ところが、面談開始早々、Bさんはこう話されました。
「正直、自分はカウンセリングは必要ないと思っています」「休職したのは業務とのミスマッチが原因です」「上司も忙しくて相談できませんでした」「自分に問題があるとは思っていません」
会社が見ている課題と、本人が感じている課題。
そこには大きなズレがありました。
こうしたケースは決して珍しくありません。
私自身、精神科病院から産業領域へ移った当初は、この構造に戸惑いました。
病院では基本的に患者さんとの一対一の関係です。
しかしEAPでは、
など、多くの関係者が存在します。
最初は、
「誰の視点を重視すればよいのだろう」
「何が本当の問題なのだろう」
と悩むこともありました。
しかし経験を重ねる中で、この仕組みの強みも見えてきました。
本人だけを見ていては気づけないことがあります。
逆に会社側だけを見ていても見えないことがあります。
双方を俯瞰して見ていくことで、問題の本質が見えてくることがあるのです。
Bさんの場合も、
「周囲に相談するくらいなら自分でやった方が早い」
という考え方がありました。
しかし抱え込みが続くと、
「なんで私ばかり」
という不満が蓄積し、結果として強いストレスにつながっていることがわかってきました。
そこで、
といった環境面での工夫を提案しました。
EAPカウンセラーは、
本人の味方でもあり、
会社の味方でもあります。
ただし、どちらか一方に立つわけではありません。
双方を理解しながら、組織の中で現実的な解決策を探していく。
言うなれば、「個人と組織をつなぐ翻訳者」のような役割なのかもしれません。
EAPカウンセラーは、どちらか一方の味方をすることでも、意見を右から左へ伝えるだけでもありません。本人が気づけていない、心がこんがらがっている状態を一緒に解きほぐしたり、
組織と個人、感情と事実など、それぞれの問題を整理していくことで、見通しを良くしそれぞれが解決に向かえるように支援していくことがEAPカウンセラーの役割でもあると感じます。
「上司にそんなことで悩んでいると思われたくなかった」
「会社の人には言えなかった」
これは実際に相談者の方からよく聞く言葉です。
人事の皆様は、従業員から見ればどうしても「会社側の人」です。
だからこそ、本当は困っていても相談できない社員がいます。
そんな時に、安心して話せる第三者がいることには大きな意味があります。
また、EAPで扱うテーマは仕事の悩みだけではありません。
そんな相談も少なくありません。
一見すると仕事とは関係ないように見えるテーマでも、抱えるストレスが大きくなれば仕事のパフォーマンスにも影響します。
だからこそEAPは、
「不調になってから使う場所」
ではなく、
「大きく崩れる前に立ち止まる場所」
として活用していただきたいと思っています。
人事の皆様と私たちは、
「誰もが安心して働ける職場をつくる」
という共通の目的を持つパートナーです。
EAPを、困った時の最後の手段ではなく、働く人の力を引き出す身近な支援ツールとして活用いただければ幸いです。