この記事のトピック

施策を『こなすこと』自体が目的になってしまっている気がする」
組織の成熟や効率化が進むほどに深まるジレンマに私たちはどのように向き合うべきか。

営業部のグループマネージャーとして、日々多くの企業の人事・CHROの皆さまと対話を重ねている碓井。彼が執筆した本稿では、お客様の「言語化できないモヤモヤ」をとことん深掘りし、組織の根本的な課題解決に伴走し続けてきた経験をもとに、綺麗事ではない「これからの組織のあり方」を紐解きます。

組織を機械ではなく「生き物」として捉え、あえて非効率な「余白」や「おせっかい」を取り戻すことの真意とは何か。最前線で人事の皆さまのリアルな葛藤や痛みに触れてきたからこそ行き着いた独自の考察を、日頃の顧客支援の視点とともにお届けします。

執筆者

ピースマインド株式会社 営業部 グループマネージャー
碓井 啓佑
【略歴】大手通信インフラ企業にて法人営業に従事。既存深耕営業と異業種間アライアンスによる新規顧客開拓のプロジェクトマネジメントを担当。現在、ピースマインドで新規営業チームのリーダーと西日本エリアの既存営業を兼務。リスペクト・トレーニングを含む各種ハラスメント防止施策についても多くの企業向けに導入提案と活用支援の実績あり。

はじめに

常に効率的であろうとすることが、本当に“良い組織づくり”につながるのでしょうか。

生成AIが急速にビジネスに浸透する中で、
「この仕事を、わざわざ人がやる意味は何だろうか」と考える場面が増えてきました。

一方で、人事の皆さまとお話ししていると、こんな声をよく耳にします。

  • 制度は整えたが、現場が思うように変わらない
  • トラブル対応に追われ、未然防止まで手が回らない
  • 効率化が進むほど、かえって人間関係が難しくなっている気がする

本稿では、営業として現場の課題に向き合う立場から、
そして個人的な関心である人文知・生物学の視点も少し交えて、
これからの組織に取り戻したい「余白」と「温度」について考えてみたいと思います。

組織の成熟と効率化の果てに失われたもの

上司は「必要な指導」のつもりだったが、部下は「ハラスメント」と感じてしまう。
休職者が出ると、その対応や業務の穴埋めに追われ、未然防止に手が回らない。

私たちに寄せられるご相談の多くは、こうした切実なものです。

メンタルヘルス対策の規定を整え、相談窓口も設置している。
それでも、なぜかトラブルの火種は尽きない。

このジレンマに、やるせなさを感じている人事の方は少なくありません。

さまざまな企業の取り組みに伴走する中で痛感するのは、
どれほど制度を整えて組織が成熟しても、最終的な課題は現場の「コミュニケーション」に収束するということです。

制度は土台にはなりますが、人と人のあいだに生じる摩擦そのものを解消することはできません。

そして、成熟し効率化した組織ではかつてよりも人と人との距離が離れ、温もりが失われる状況もよく目にします。

組織は機械ではなく、“生き物”であるという視点

ではなぜ、制度を整えても現場で機能しないのでしょうか。

その背景には、日々の業務に追われる中で起きる「手段の目的化」があると感じています。

厚生労働省の調査では、ストレスチェックを実施している事業所は約65%にのぼる一方、
その結果をもとに分析結果の活用まで行っている企業は約38%にとどまっています。(※1)


つまり、「実施すること」自体が目的になり、本来の改善にまで踏み込めていないケースが少なくないのです。

現場でもよく聞くのは、「決まりで義務だからやっている」という状態です。

私は生物学が好きなのですが、組織は「部品を組み合わせれば動く機械」ではなく、
常に変化しながらバランスを取る“生き物”のようなものだと感じています。

だからこそ、制度や仕組みという“パーツ”をいくら追加しても、そこに血が通っていなければ機能しません。「コンプライアンス対応や運用に追われ、また、役割の細分化によって「制度を回すこと」自体が目的化した瞬間、組織は少しずつ体温を失っていく。」この感覚は、多くの人事の方がどこかで感じているのではないでしょうか。

営業として大切にしている事「施策の意味」を問い直す

私は営業としてご相談を受ける際、具体的な手段の話に入る前に
「現場で何が問題になっているのですか?」「〇〇さんはそれをどう感じていますか?」とお聞きします。

ときには「それより早く提案してほしい」と思われることもあるかもしれませんが、
それでも、この問いを大切にしています。

なぜなら、この対話を通じて、

  • この施策を実施する意味
  • 目の前のお相手と施策を進める意味

が見えてくるからです。

実際に、話を深めていく中で「研修ではなく別のアプローチの方が有効かもしれない」と
方向転換するケースも少なくありません。

目の前のタスクをこなすことから一歩引いて、
「この施策で、現場にどんな会話を生みたいのか」
「○○さんにとってどんな組織でありたいのか」
を問い直す。

このプロセスこそが、組織に“温度”を取り戻す最初の一歩になると感じています。

ゆっくりいそげ。「余白」と「おせっかい」が組織を強くする

もう一つ、私が現場で強く感じていることがあります。

それは、効率化の追求だけでは、良い組織はつくれないということです。

効率化が進むと、無駄は削減されます。
しかし同時に、

  • 雑談の時間
  • ちょっとした気遣い
  • 「最近どう?」と声をかける余裕

といった“余白”も失われていきます。

この余白こそが、実は制度でカバーしきれない死角を解消し、人と人との関係性を支えているのではないでしょうか。
「見返りを求めず、相手のために少し時間を使うこと、少し踏み込んで関わること。」
私はこれを「良い意味でのおせっかい」と呼んでいます。

これは効率の観点だけで見れば、確かに“無駄”かもしれません。
しかし、この“無駄”があるからこそ、

  • 困ったときに頼れる関係
  • 本音を言える関係
  • 支え合える関係

が生まれます。

「Give」が循環する組織は、なぜ強いのか

以前の私は、合理性や効率が強く求められる環境にいました。

そこでは、「正しくやること」や「早く終わらせること」が重視され、気づけば、同僚や上司とはタスクを処理するために利用し合うだけの関係になっていました。

そのときに感じたのは、人が“役割”に閉じ込められると、仕事の面白さは急速に失われるということでした。

一方で、印象的だったのが、あるカフェを経営する影山氏の考え方です。(※2)

ギブの精神で目の前の人との関係性に時間とエネルギーを投資する。その結果「健全な負債感」が相手に生まれ、
相手はそれを返すためにまた次の誰かにギブする。「助け、助けられる関係」が自然に生まれ、組織全体に循環していく。

これは単なる理想論ではなく、持続可能な組織のあり方の一つのヒントだと感じました。

効率を追求するほど、短期的な成果は出やすくなります。
しかし、長期的に見ると、

  • 人が疲弊する
  • 自分の役割と縄張りに固執する
  • 揉め事が増える
  • 関係性が希薄になる
  • 挑戦が減る

といった影響が出てきます。

だからこそ、
「テイク(利用)」ではなく「ギブ(支援)」が循環する組織をどうつくるか。

これは、メンタルヘルスやハラスメント対策の文脈においても、見落としてはならない本質的なテーマだと感じています。

おわりに:まずは「壁打ち」から始めませんか

人事の仕事は、正解がなく、すぐに結果が見えにくい仕事です。

  • 制度は整っているのに、現場が変わらない
  • 何か違和感はあるが、言語化できない

そんなときは、ぜひ一度お話しさせてください。

具体的な施策が決まっていなくても構いません。
まずはモヤモヤを言葉にするところから伴走させていただければと思います。

施策の是非を判断する前に、

「そもそも何を目指したいのか」を一緒に整理する、“壁打ち相手”として、関わらせていただけたら嬉しく思います。

「はたらくをよくする®」効率だけでは測れない、組織の“温度”を大切に。

私たちは、人事の皆さまとともに、人がいきいきと働ける職場づくりをこれからも支えていきます。

【参考文献】

※1 厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」第3表 ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析実施の有無別事業所割合,第4表 ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析結果の活用の有無及び活用内容(複数回答)別事業所割合

※2 影山 知明『ゆっくり、いそげ -カフェからはじめる人を手段化しない経済-』

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