
健康経営の新常識!知覚された組織支援(POS)活用ガイド
近年、企業における「健康経営」の重要性が高まり、積極的な取り組みが進められています。それに伴い、健康経営に関する研究も活発化しており、様々な新しい概念が注目を集めています。その中でも、近年特に注目されているのが、「知覚された組織的支援(Perceived Organizational Support:POS)」です。本記事では、POSについて解説し、POSを高めるための具体的なポイントをご紹介します。
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健康経営の文脈で注目されるPOSーガイドブックにおける新しい概念ー
2025年3月に経産省から健康経営ガイドブック2025が公開されました(※1)。本ガイドブックは、2016年に公開された企業の「健康経営ガイドブック」~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)」と2020年に公開された「健康投資管理会計ガイドライン」の内容を統合したもので、健康経営の定義や実践手順、戦略マップの作成方法、顕彰制度などが網羅されています。その中で新たに「健康風土」という概念が重要な要素として紹介されました。
健康風土とは、企業独自の健康に関する価値観や行動様式が根付いた環境のことを指します。健康風土が醸成されることで、従業員の研修参加率や研修効果が向上し、健康経営の推進に寄与します。
また、研究では、企業の健康投資レベルが高いと感じている人の方が、健康状態や仕事のパフォーマンスが良好になるということが示されています。(※1)つまり、無形資源である健康風土の醸成が、健康経営の推進に繋がるといえるでしょう。
POSとは
これまで健康風土を定量的に測定する手段はありませんでしたが、近年では「知覚された組織的支援(POS)」がその指標として注目されています。
POSとは、「従業員の貢献を組織がどの程度評価しているのか、従業員のwell-beingに対して組織がどの程度配慮しているのかに関して、従業員が抱く全般的な信念(Eisenberger et al. 1986)」のことです。つまり、「会社から支援されている」と従業員が実感することがPOSであるといえるでしょう。
特長①確固たる理論に基づいた考え方
POSは、社会的交換理論に基づいて作られた考え方です。この理論では、人は自分が得るものと自分が費やすもののバランスを考えながら行動するとされています。
企業においては、従業員が会社からの支援を感じるほど、組織への貢献意欲が高まる傾向があります。
研究では、POSを高めることで、以下のような効果をもたらすことが示されています(※2)。
・ワークエンゲージメントの向上
・仕事満足度の向上
・主観的業績の向上
・組織に基づく自尊心の向上
・離職意思の低下
特長②定量的に測定が可能
POSのもう一つの強みは、客観的に測定可能な尺度があることです。ストレスチェックに、POSの項目を追加することで、従業員のPOSを把握することができます。
では、POSを高めていくためには、どのようなことが必要になるのでしょうか。
POSを高めるために必要なこと
POSを高めるステップとしては「現状を把握する」「向上のための取り組みを行う」の2つになります。
STEP1 現状把握のための定量測定
まず、現状のPOSがどのような状況になっているのか把握することが重要です。POSは質問紙によって測定されます。代表的な尺度として、英語版36項目からなる「Survey of Perceived Organizational Support(SPOS)」があります(※3)。現在では、日本語版の短縮版SPOS(8項目)も開発されており、7段階評価で回答を得ることができます(※4)。
STEP2 POS向上のための取り組み
現状把握の結果を踏まえて、POSを向上させるための取り組みを行うことになります。ここでは取り組みを行う際に抑えておきたい2つのポイントをご紹介します。
組織的な支援
経営層が健康経営の方針を示すだけでなく、リーダーシップを発揮し、各部署に推進担当者を配置するなどの具体的な支援が求められます。経営層の支援が上司に伝わり、さらに部下へと波及することで、組織全体のPOSが向上します。
注意点として、経営層と上司の支援方針が一致していない場合、部下はPOSを感じにくくなります。経営層は管理職が支援しやすい環境を整え、管理職はその方針に沿った支援を行うことが重要です。
公正性
POS向上には、公正な意思決定プロセスが不可欠です。特に重要なのは「手続き的公正性」です。「なぜ組織はそのような意思決定をしたのか」「人事評価はどのようにされているのか」「昇進や評価は全社員平等にされているのか」など昇進や評価のプロセスが透明であることがPOSに大きな影響を与えます。
分配的公正性(給与や役割の公平性)も重要ですが、手続き的公正性の方がPOSへの影響が大きいとされています(※2)。
POS向上への産業医との連携
POS向上には、企業内だけでの取り組みでは限界があるため、産業医との連携が重要です。以下の3つの段階での関与が効果的です。
計画段階
健康経営の推進には、経営層による計画立案が不可欠です。その際、産業医の専門的知見を取り入れることで、より実効性の高い施策が可能になります。
測定段階
POS測定時には、産業医の協力があることで、従業員の心理的安全性を担保することに繋がり、適切なデータを得ることに繋がります。具体的には以下の際に協力を仰ぐことが有効的です。
・POSを測定する目的の周知(個人評価に使用しないことの説明)
・匿名性の確保
・質問項目の妥当性・信頼性の確認
また、測定後の解釈をする際に、医学的専門知識を持った産業医だからこそ、効果的な改善施策や意見を伝えることができるという利点があります。
行動段階
産業医は、上司による支援が難しい場合の相談窓口として機能し、従業員への支援を補完します。これにより、上司のPOSも向上し、結果として部下のPOS向上にもつながります。
さらに、法令遵守業務の中でもPOS向上に寄与する場面があります。
・職場巡視時の声かけ
・衛生委員会での講話
・健康診断後の丁寧な事後措置
人事担当者は、これらの取り組みが可能かどうかを産業医と連携して確認することが重要です。また、POSについて理解があるなど、メンタルヘルスに精通している産業医を採用することが重要になるでしょう。
まとめ
健康経営ガイドブック2025では、健康風土の重要性が上がり、これまで記載がなかった知覚された組織(POS)について記載がされました。POSが向上することにより、健康風土が高まり、施策への参加率の向上、健康問題による生産性の低下を防止し、人的資本の形成・蓄積に繋がります。そして、職場の信頼感が向上し、心理的安全性が高い組織になり、経営上の成果を得ることができます。
POS向上は、経営層や管理職層が取り組むだけでは、困難なところがあります。そこで、産業医などの産業保健スタッフと連携し、従業員の支援を構築していくことが重要になります。また、メンタルヘルスに精通している産業医を採用し、取り組みを強化することが必要となるでしょう。
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<引用文献>
※2 知覚された組織的支援(Perceived Organizational Support) 研究の展望―理論的基礎,先行変数,結果変数および測定尺度について―. 佐藤 佑樹
※3 Eisenberger, R. et al. Perceived organizational support. Journal of Applied Psychology, 1986, 71, 500-507
※4 Odagami, K. et al. Reliability and validity of the Japanese version of the Survey of Perceived Organizational Support. journal of Occupational Health, Volume 66, Issue 1, January-December 2024, uiae034