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なぜあの人の言動は職場の雰囲気を悪くするのか?インシビリティ(礼節の欠如)による組織への影響と行動変容のポイント

「ハラスメントとは明確には言えないけれど、社員がハラスメントと訴えてくる」
「明確なハラスメントではないけれど、本人の振る舞いが周囲の負担になっている」
といった、職場風土や対人関係に悪影響を及ぼすコミュニケーションに課題意識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

近年注目される「インシビリティ(礼節の欠如)」の考えを活用することで、組織のコミュニケーションを変化させることが出来るかもしれません。

本記事では、インシビリティに着目し、そのメカニズムから行動変容のポイントまでお伝えします。

目次[非表示]

  1. 1.インシビリティとは?
    1. 1.1.身近にあるインシビリティ
    2. 1.2.インシビリティがもたらす影響
      1. 1.2.1.個人への影響
      2. 1.2.2.組織への影響
  2. 2.インシビリティはなぜ起きる?
    1. 2.1.要因①:性格特性
    2. 2.2.要因②:生育環境
    3. 2.3.要因③:個人の価値観(先入観・偏った価値観)
  3. 3.行動変容を促すために
    1. 3.1.まずは行動を変える ーインシビリティをシビリティにー
    2. 3.2.次に自分の認知に向き合う
      1. 3.2.1.価値観とインシビリティの関係
      2. 3.2.2.自分の認知に向き合うための3ステップ
  4. 4.まとめ



インシビリティとは?

インシビリティとは、相手を傷つけようとする積極的意志は曖昧なものの、他人に対する思いやりや配慮を欠いた失礼で無作法な言動のことです。

放置しておくと職場がギスギスした雰囲気になり、職場のいじめやハラスメントに発展したり、社員のメンタルヘルス悪化や生産性の低下を招いたりするリスクがあります。





身近にあるインシビリティ

インシビリティは聞きなれない言葉ですが、該当する言動は以下のような「冷たい対応」や「やらない行為(不作為)」であり、職場で目にする機会も多いでしょう。

冷たい対応
・質問をしてきた部下への「それくらいわかるでしょう」と突き放した言動をする
・特定の人に対して無愛想な振る舞いをする

やらない(不作為)行為
・会議までに読んでおいてほしいと伝えた資料に目を通さず会議に参加する
・質問や投げかけに対して、返答をしない

また、インシビリティは、「忙しい、ゆとりがない」「不安・気がかりなことがある」「気が緩んでいる」「立場が優越している」「疲れている」「自分が正しいと思っている」状況で出現する傾向があります。


インシビリティがもたらす影響

上記のような言動をされた、あるいはしてしまった、見聞きした人は少なくないと思います。では、これらの言動は人と組織へどのような影響をもたらすのでしょうか。


個人への影響

【行為者】
行為者側の意図が曖昧であることがインシビリティの特徴です。そのため、行為者側は「傷つける意図がない」「自覚がない」ことがあります(※1)。

【行為を受けた側】
行為を受けた側は「嫌な気持ちになる」「パフォーマンスが下がる」「心理的ストレス反応やワークエンゲージメントが悪化する」といった影響を受けます。

研究では、インシビリティに該当する行為を受けた人のうち、20%近くが退職したことが分かっています。さらに、行為を受けた人は、自身も他人に対してインシビリティをする傾向があることも示されています(※2)。

【第三者】
第三者の立場においても、インシビリティに気が付いている場合には「インシビリティが起きる職場に居たくない」あるいは「自分も同じような振る舞いをしても許される」と思う傾向があります。


組織への影響

インシビリティの横行が常態化することによって、他部署にも悪影響を及ぼし、「組織としての生産性」や「ワークエンゲージメント」の低下に繋がります(※3)。

また、長期化により組織風土自体が悪化し、課題解決がさらに困難な状況になることも予想されます。




インシビリティはなぜ起きる?

インシビリティが起きる背景には以下3つの要因が潜んでいます。


要因①:性格特性

1つ目は性格特性です。「他者への共感性が低い」場合、「自分の言動によって他者がどのような気持ちになるか」を想像することが難しく、無意識のうちにインシビリティにあたる言動をしてしまうことがあります。「他者への共感性が低い」という性格特性は案外ありふれたものであり、珍しいことではありません。


要因②:生育環境

2つ目は生育環境です。「インシビリティにあたる言動が当たり前の環境で育った」場合や「親子関係が希薄、あるいは好ましくない環境のもとで育った」場合が当てはまります。自分の中では「普通」「当たり前」と思っている言動が、他者にとってはきついものであったり、失礼に受け止められることがあります。


要因③:個人の価値観(先入観・偏った価値観)

3つ目の個人の価値観は、その人の経験によって構築された価値観を指します。「若いうちちの苦労は買ってでもしろ」「管理職は優秀であるべきだ」といった考え方は、それぞれの人生経験によって培われた価値観によるものといえるでしょう。しかし、このような価値観に基づいた言動が人を不快にさせることに気づいていないケースも、少なくありません。




行動変容を促すために

ご紹介した3つの要因は、人それぞれ内容や比重が異なるため、一様にインシビリティに気づいたり、行動変容を起こしたりすることは容易ではありません。この章では、行動変容を促す際のポイントをお伝えします。


まずは行動を変える ーインシビリティをシビリティにー

インシビリティを無くすために、言動の根幹にある価値観を無理に変える必要はありません。

インシビリティと対になる概念として「シビリティ」があります。シビリティとは「相手に対する否定的/無礼な言動をしないという決定であり、社会規範を維持するための最低限の礼節がある言動」と定義されます。

シビリティの定義に精神性が含まれていないことからも、インシビリティをシビリティに変えるためには、その人の価値観を変えるのではなく、あくまで行動を置き換える点がポイントになります。

例えば、自分がイライラしている時に部下から話しかけられると無視してしまう場合には、「無視」を「5分待っくれませんか」という返答置き換えることでインシビリティは解消されます。イライラしないようにするのではなく、イライラしている時の行動を置き換える考え方です。




次に自分の認知に向き合う

自身の言動の中には「行動を置き換える」ことが難しいケースもあるでしょう。その場合は、言動の根幹にある自分の認知と向き合うことが効果的です。


価値観とインシビリティの関係

人には誰でも、個人の持つ価値観によって、無意識に生じる考え方や感情があります。程度の差はありますが、誰にでもある考え方の癖のようなもので、自動思考と呼ばれます。自動思考には以下のものが挙げられます。



「行動を置き換える」ことが難しいと感じた場合には、自身の価値観や自動思考によってインシビリティが起こっていることを認識し、行動変容に繋げることがポイントです。


自分の認知に向き合うための3ステップ

【気づく】
認知に向き合い、行動を変えるためには、自身の自動思考に気づくことが第1歩です。「絶対に~ない」「普通は」「〜べき」などのネガティブワードを手がかりに自分の自動思考へ意識を向けるとよいでしょう。

【止める】
自動思考に気が付いたらその考えを続けることを止めてみましょう。止めるのが難しい場合には、コーヒーを買いに行くなど、その場から離れる工夫も有効です。

【書き換える】
自動思考から咄嗟に出てくる言葉を飲み込み、「別の考え方は出来ないだろうか」と働きかけることで、行動を変えることに繋がります。思い浮かばない場合には、「尊敬する人ならば」「友達・親ならば」「絶好調の自分ならば」「今この瞬間から1年経った時は」と考えてみるとよいでしょう。​​​​​​




まとめ

本記事ではインシビリティのメカニズムや行動変容のポイントについて解説しました。無意識の行動を変えることは容易ではありませんが、「行動を置き換える」ことで、インシビリティからシビリティに変換することができます。

ピースマインドでは、インシビリティ・マネジメント研修をご提案しています。本研修でアプローチするのは、職場風土や対人関係に悪影響を及ぼすようなギスギスしたコミュニケーションの改善です。単に知識を学ぶだけではなく、実践的なロールプレイを通じてインシビリティでない行動パターンを獲得することができます。

詳細は以下のサービスページより、ぜひご確認ください。

  インシビリティ・マネジメント研修 インシビリティ(incivility:礼節の欠如)とは、相手を傷つけようとする積極的意志は曖昧なものの、他人に対する思いやりや配慮を欠いた失礼で無作法な言動のことです。放置しておくと職場がギスギスした風土になり、職場のいじめやハラスメントにエスカレートしたり、社員のメンタルヘルス悪化や生産性の低下を招くリスクがあります。 ピースマインド株式会社



監修者プロフィール

松崎 亮介(マツザキ リョウスケ)

ピースマインド株式会社 組織ソリューション部 ソリューションコンサルタント
臨床心理士  公認心理師 精神保健福祉士 宅地建物取引士 調理師


教育、医療、産業といった心理専門職が活動する主たる領域での臨床実務経験がある。
ピースマインド入職後はカウンセラーとして従業員に対する電話やWEB、対面によるカウンセリングのほか、人事管理職相談や組織マネジメントに関するコンサルタント業務を行う。
ストレスチェックの組織分析に基づくワークエンゲージメント向上のためのプログラムデザインや、ラインケア研修やハラスメント防止研修などの各種メンタルヘルス研修の実施、職場のクライシスマネジメント等の業務に従事してきた。


=参考資料=

※1 Anderssen, L.M. and Pearson, C.M. (1999), “Tit for tat? The spiraling effect of incivility in the workplace”, The Academy of Management Review, Vol. 24 No. 3, pp. 452-471.
※2 Eva Torkelson,Kristoffer Holm,Martin Bäckström,and Elinor Schad,Factors contributing to the perpetration of workplace incivility: the importance of organizational aspects and experiencing incivility from others,Work Stress. 2016 Apr 2; 30(2): 115–131. Published online 2016 Apr 21. doi: 10.1080/02678373.2016.1175524
※3 CHRISTINE M. PEARSON LYNNE M. ANDERSSON CHRISTINE L. PORATH,Assessing an attacking workplace incivility,November 2000Organizational Dynamics 29(2):123-137 DOI:10.1016/S0090-2616(00)00019-X

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