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自殺サインを見逃さない 社員の異変を感じたら取りたい3つの行動

自然災害や事故、病気、親しい人の死、あるいは異動、転職など、人生における危機や重大な局面に直面した際に陥る一定期間の心理的不均衡ことを、クライシスと呼びます。クライシスにおける危険要因とは、心理状態が不安定になることで自殺問題に発展する可能性です

​​​​​​​本記事では人事担当者さまに向け「予防編|社員の異変に気づいた場合」と「対応編|自死未遂が発生した際の対応」2つ分けて、社員の異変に気づいたときに取りたい行動を解説します。

*本記事では、以下から「自殺」を「自死」と表記し解説していきます。
*本記事は企業の人事担当者の方に向けた情報です。人事担当者以外の方で自死に関する相談を受けたり、ご自身が自死をお考えの場合は、厚労省が提示する相談先にご連絡ください。

  相談窓口案内|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト 「こころの耳」(厚生労働省サイト)では、仕事やキャリア、こころの健康など、様々な悩みに関する専門の相談機関・相談窓口を紹介しています。 https://kokoro.mhlw.go.jp/agency/#anc7


クライシス対応 チェックリスト


目次[非表示]

  1. 1.予防編|社員の異変に気づいた場合
    1. 1.1.①「自死を考えているのかも」と思った場合➡まずはチェックリストを確認する
    2. 1.2.②自死に関する相談を受けた場合➡面談の日程と場所を確保し、傾聴の姿勢を保つ話しやすい環境・傾聴姿勢を知っておく
      1. 1.2.1.言葉の真意を聴く
      2. 1.2.2.できる限りの時間をかけ、傾聴する
      3. 1.2.3.話題をそらさない
      4. 1.2.4.「自死しない」約束をする
    3. 1.3.③専門家に相談すべきだと感じた場合➡外部機関の特徴を把握し相談する
      1. 1.3.1.社外からサポートできるキーパーソンとの連携を
      2. 1.3.2.診断・治療には専門医療機関との連携を
      3. 1.3.3.いつでも相談できる地域の相談窓口との連携を
      4. 1.3.4.職場ケアのプロに任せるならEAPサービス企業との連携を
  2. 2.クライシス対応編|自死未遂が発生した際の対応
    1. 2.1.本人へのケアは適切な復職サポートが鍵となる
    2. 2.2.社員を動揺させない支援方法を知っておく
    3. 2.3.Critical Incident後に起きうる心理的反応① アニバーサリー反応
    4. 2.4.Critical Incident後に起きうる心理的反応② PTSD
  3. 3.まとめ 異変に気づくために
  4. 4.ピースマインドのクライシス支援


予防編|社員の異変に気づいた場合

自死を防ぐためにできることは、大きく分けて3つあります。それは、「SOSサインを見逃さないこと」「相談された時の対応を知っておくこと」そして、「外部機関といつでも連携できる仕組みをつくること」です。


自死を防ぐためのフロー


①「自死を考えているのかも」と思った場合➡まずはチェックリストを確認する

自死の危機にある方は、共通するサインを送っていることが分かっています。もしも「自死を考えているのかも」と推察できる言動に触れた際は、以下のチェックリストを参考に、どのようなサインがあるか確認しておきましょう。


12の自死サインチェックリスト


(注2を参考に作成)


「うつ病の症状が見られる」ようであれば、

・表情が暗い

・涙もろい

・反応が遅い

・落ち着きがない

・飲酒量が増える


このような症状があった場合には、特に気をつけましょう。

また、自死された方の多くは、最期の行動を起こす前に自死の意図を誰かに打ち明けています。特に、それまで真面目で愚痴など言わなかった方や物静かだった方が自死を口にしたり、遺書を用意したりする場合は、要注意です。


このほかにも、「激しい口論やけんかをする」「突然の家出や放浪」「大切にしていたものを整理して誰かにあげたりする」など、少しでも普段と違う様子が伺えたら、早い段階で専門家に相談してみましょう。


②自死に関する相談を受けた場合➡面談の日程と場所を確保し、傾聴の姿勢を保つ話しやすい環境・傾聴姿勢を知っておく

相談を受けた、または面談をする必要があると判断した場合は、できる限り早く、時間と場所確保しましょう


相談を持ちかけられた時点で応じることが最善策ですが、どうしても時間を取れない場合は本人にその旨を伝え、必ず面談の日程その場で決めておきましょう



また、場所を選ぶ際には
・面談していることが他の社員に知られない部屋にする(ガラス張りのミーティングルームなどは避けましょう)
・面談内容が他の部屋や廊下に聞こえない場所を選ぶ
・圧迫感がなく、落ち着いて話しやすいゆったりとした部屋を確保する
など、プライバシーが守られる環境を事前に把握しておくことが大切です。


特に、相談を持ちかけられた場合は、本人の意思で選ばれたことを、記憶に留めておきましょう。相談内容をむやみに他言することは、絶対にしてはいけません。守秘義務やプライバシー順守を徹底し、面談に臨みましょう。


以下では、面談中に心がけたい聴く姿勢について、具体的に説明していきます。


相談への適切な対応


言葉の真意を聴く

もし「消えてしまいたい」「居場所がない」「自分は何のために生きているのだろう」などと間接的に自死願望を伝えられた場合、これらの言葉はむしろ「生きたい」と願うからこそ出てきたものかもしれません。言葉を鵜呑みにせず、傾聴姿勢を取り、言葉の真意を探るようにしましょう


できる限りの時間をかけ、傾聴する

じっくりと話を聴くだけで、本人の不安が緩和されることもあります。相談された際は、気の利いた助言を行うよりも、聴き役に徹することを優先させるとよいでしょう。


話題をそらさない

自死以外の事項に話題を変えたり、相談者本人の考えや想いを否定したりすることで、「訴えをちゃんと聴いてもらえていないのでは」と思わせてしまいます。相談を受けている間は、うなずきやアイコンタクト、相槌を心がけ、本人が安心して話せる環境を整えましょう
また、相談に来る相手は、本人だけでなく、上司や家族などの場合もあります。まずは相手の考えや現状、意思を丁寧に聴きましょう。


「自死しない」約束をする

本人と「自死しない」約束をすることが、不幸な事態を未然に防ぐために機能することもあります。ただし、本人が自分の行動をコントロールできない状態にあると効果が得にくくなることが考えられます。
いずれにおいても、以下で解説する機関と早急に連携を取るとよいでしょう。

​​​​​​​

③専門家に相談すべきだと感じた場合➡外部機関の特徴を把握し相談する

相談を受け、ご自身だけでの判断や解決が難しいと判断した場合は、外部機関を活用する方法もあります。

規模の小さい企業や部署の場合は、割ける人員も少なく、相談を受けても組織・部署内だけでメンタル問題をサポートしていくことが難しい場合もあります。そのようなケースの場合は、外部機関と連携することで本人の適切なケアに繋げることが可能です。以下では、社内・社外でどのようなサポートができるか紹介していきます。


活用できる外部機関


社外からサポートできるキーパーソンとの連携を

日頃から本人との付き合いが深く、本人の置かれている状況や気持ちを理解している人(キーパーソン)に協力を求め、支援を進めることも重要です。例えば、精神科や心療内科を本人に勧めても、なかなか足を運べない場合があります。そのような場合は、キーパーソンにカウンセリングに行ってもらうことで、ソーシャルサポートにつながる場合もあります。

一般的に、家族、上司、友人がキーパーソンとして挙げられます。


診断・治療には専門医療機関との連携を

精神障害による自死で労災認定された事例を調査した結果では、家族に対し「うつ病を予期させるような言動があったか」と尋ねると、92%が「はい」と答えていました。一方で、実際に医療機関を受診していた人は33%でした。このことから、うつ病に罹患した社員を精神科医療へつなぐ難しさが分かります(注2)。

うつ病などの精神疾患の存在が疑われたり、自殺の危険性が迫っていると考えられたりする場合、産業保健スタッフによる相談や専門医による診断や治療が不可欠です。

社員の異変に気がついたら、早めに専門医療機関への受診を勧めることが重要です。


いつでも相談できる地域の相談窓口との連携を

職場の相談窓口の他にも、各都道府県の産業保健推進センターや、地域産業保健センター、労災病院勤労者メンタルヘルスセンター、都道府県等の精神保健福祉センターなどの相談窓口を活用することもできます。

これらの機関では、専門スタッフが電話や電子メールなどで相談に応じ、解決方法を助言してくれるため、いつでも気軽に活用できる所が多いという特徴があります。

例えば、地域産業保健センターでは、健康障害発症のリスクが高まった社員に対し、医師が健康の状況を把握し、事後措置を提案してくれます。どのような場合に、どの機関と連携を取るとよいか、事前に知っておくことも重要です。


職場ケアのプロに任せるならEAPサービス企業との連携を

近年注目を集めているメンタルヘルスサービスに、EAP(Employee Assistance Program : 従業員支援プログラム)があります。これは、職場が抱える問題や求めるサービスに応じて、心理学や行動科学の視点から、職場のパフォーマンス向上などに対し解決策を提供するプログラムのことです。

従業員全体の健康管理全般を担う社内健康管理スタッフだけではカバーしきれないこともあります。EAPを活用することで、企業の健康管理全般の質を落とさず、充実した支援体制を整備できます

また、社員が相談内容等を事業場に知られることを望まない場合、守秘義務が確約される外部資源を活用することで、安心して相談することができます

さらに、メンタルヘルスに特化した専門家の視点から助言を受けることが、職場の健康管理スタッフの支援につながる場合もあります。

費用の面から単独で外部EAPと契約することが難しければ、いくつかの事業場が集まって外部EAPと契約する、コンソーシアムEAPのシステムを利用できる場合もあります。

連携先のひとつとして、信頼できるEAPサービス提供企業も調べておくとよいでしょう。



クライシス対応編|自死未遂が発生した際の対応

自死が実際に発生した場合や、未遂であっても周りに影響を与えるような出来事が起きた際は、状況に合わせて適切な介入措置を取ることが必要になりす。ここでは本人と他の社員に対するケアについてご紹介します。



本人へのケアは適切な復職サポートが鍵となる

自死未遂をされた方が、精神科への通院や休職を経たからといって、体調が万全に戻っているわけではなく、むしろ不安定な状態が長期的に続くことが予想されます。立ち直ったように見えても、状況が変われば再び自殺の意思が生まれることもあるため、長い期間をかけて支援する姿勢が求められます。

社員の休職・復職をサポートするにあたって、外部の休職・復帰者支援サービスを利用する方法があります。これは、休職前から復職後の再発防止まで各段階に応じて、休職者と人事担当者それぞれに対して支援・サポートを行うサービスです。

ピースマインドの休職・復職者支援サービスについては、こちらをご覧ください。


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再発防止のためにも、休職・復職が必要になった際どのように対応するべきか、前述の外部機関と連携することも視野に入れ、自社内のフローを確認しておきましょう


社員を動揺させない支援方法を知っておく

自死未遂や実際に不幸な出来事が生じた場合、本人だけでなく他の社員に対してもケアが求められます。同僚の自死や自死未遂の記憶はCritical Incident(外傷性の事故)として心理的影響を及ぼす可能性があるためです。

例えば、事故が起きてから特に打ちひしがれている方や、責任を感じている方、故人と強い絆があった方、第一発見者などは、特に心理的影響を受ける可能性があります。このような方に対して積極的にケアを進めることが、重要です。

社内でできるケアの方法として、まずは自死について中立的な立場で状況を伝えることがあげられます。隠したり、逆に美化して話したりせず、淡々と伝えることがよいとされています。

また、故人とつながりがあった社員同士で集まり、お互いの率直な気持ちを語り合い、感情を共有できる場を設けることも大切だと考えられています。しかし、強制的に話させるようなことはせず、社員の意思を尊重する場を設けるよう心がけるとよいでしょう。


社員の気持ちをオープンにできる場づくりを


さらに、知人の自死を経験した方に起こりうる反応について、予め伝える機会を設けておくことも重要です。以下では、特に注意したい心理的反応を解説していきます。


Critical Incident後に起きうる心理的反応① アニバーサリー反応

大きな出来事や辛い出来事から1か月、1年、10年などの節目の時期に、心身の状態が不安定になることを指します。

出来事が起こった日付と一緒にその体験が記憶されるため、意識していなくても、その日付近づくにつれてうつ状態のような反応生じます。


身近な方との死別によっても引き起こされるため、遺された方々への注意が必要です。

アニバーサリー反応については、以下の記事でも解説しています。


  アニバーサリー反応とは?すぐに取り入れられる対処法をご紹介 この記事では ・アニバーサリー反応とは何か ・アニバーサリー反応への具体的な対処法 について解説します。 ピースマインド株式会社


Critical Incident後に起きうる心理的反応② PTSD

Post Traumatic Stress Disorder の略称で、心的外傷後ストレス障害と訳されます。

死の危険に直面した後、その体験の記憶がフラッシュバックように思い出されたり、夢で見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態です。


分自身の体験だけでなく、近親者や親しい友人が、突然の暴力的な出来事によって亡くなったり、重症を負ったと知らされた場合においても発症するため、遺族や同僚などの遺された方においても発症する可能性がある病気です。

数ヶ月から数年間経ってから、PTSD症状がはっきりとしてくる場合もあるので、症状が続いているときは、専門医療機関に相談するよう呼びかけましょう。(注3)


まとめ 異変に気づくために

この記事では、普段と様子が違う社員への支援方法から、その後の対応、実際に自殺未遂などが起きた場合のケアについて解説してきました。

自死予防のためにまずできることは、社員の異変に気づくことです。普段との違いに気づけるようになるためにも、日頃から声かけや個別ミーティングなどのコミュニケーション、並びに定期的なストレスチェックの実施を進めていきましょう。

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ピースマインドのクライシス支援

ピースマインドでは、予防から発生後までトータルでサポートする、クライシス支援(災害、事故等の緊急心理支援)サービスをご提供しています。

当社のEAPコンサルタントが速やかに対応し個人から組織まで多面的にサポートいたします。

他社に断られた難しいケースも対応可能です。従業員のクライシスケアでお困りの際には是非ご相談ください。

クライシス対応 チェックリスト


監修者プロフィール

後藤 麻友(ごとう まゆ)
ピースマインド株式会社 
コンサルティング部 サービス本部 コンサルティング部 部長 
公認心理師 臨床心理士 国際EAPコンサルタント(CEAP)

臨床心理学の修士号を取得後、ピースマインド株式会社に入社。EAPコンサルタントとしての臨床業務の傍ら、研究、研修、サービス開発にも従事。現在は、主にコンサルタントのマネジメントや育成支援を行っている。


=参考資料=

(注1)厚生労働省 令和2年度 我が国における自殺の概況及び自殺対策の実施状況
(注2)厚生労働省 職場における自殺の予防と対応
(注3)厚生労働省 知ることから始めよう みんなのメンタルヘルス PTSD


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