
ハラスメントとは?法的定義と最新法令、裁判事例から考える企業の防止対策
「ハラスメント法制化」により、職場のハラスメント対策は“努力目標”ではなく、事業主が雇用管理上の措置を講じるべき法的義務として明確化されました。
パワハラは労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)の枠組みで措置義務化され、セクハラは男女雇用機会均等法、マタハラ等は育児・介護休業法などで措置義務が整理されています。
さらに2025年公布の改正(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も事業主義務となり、2026年10月1日に施行予定です。
本記事では、法的定義、判断基準、義務内容、裁判事例の示唆を踏まえ、企業が取るべき実務的な防止対策をご紹介します。
目次[非表示]
- 1.ハラスメントとは何か?
- 2.主なハラスメントの種類と特徴
- 3.ハラスメントと判断される基準
- 3.1.優越的な関係に基づく言動とは
- 3.2.業務上の必要性と相当性の考え方
- 3.3.「指導」との違いはどこにあるのか
- 4.ハラスメント法制化 -主な法令と企業の義務-
- 5.最新法令から読み解く企業に求められる法的義務
- 6.裁判事例から見るハラスメント判断のポイント
- 7.よくある質問
- 7.1.Q1. ハラスメント法制化で、企業は何が変わりましたか?
- 7.2.Q2. 指導とパワハラの違いをどう線引きすべきですか?
- 7.3.Q3. 相談窓口を作れば法令遵守になりますか?
- 7.4.Q4. カスタマーハラスメント対策はいつから義務化されますか?
- 7.5.Q5. 裁判例はどこで確認できますか?
- 8.まとめ
- 9.ピースマインドのハラスメント対策支援サービス
ハラスメントとは何か?
ハラスメントの定義と職場での位置づけ
職場の「ハラスメント」は、単なる不快感の問題ではなく、就業環境を害し、雇用管理上のリスク(安全配慮義務、労務トラブル、離職、労災、企業イメージ毀損)につながる行為として扱われます。
代表的な職場のパワーハラスメントについては、厚生労働省により「1)優越的な関係に基づいて行われる、2)業務の適正な範囲を超える、3)身体的又は精神的苦痛を与える、又は就業環境を害する」という3要素で定義されています。(※1)
そのほか、職場のセクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ等)も、事業主が講ずべき措置が法と指針で定められています。
なぜ企業にとって重要な課題なのか
ハラスメントが企業にとって重大なのは、当事者の心身の不調だけでなく、組織全体の生産性とリスク管理に波及するからです。相談が遅れることで、職場の人間関係悪化・欠勤・休職・離職といった形で損失が大きくなる可能性が高まります。
さらに法制化によって、企業は「防止措置を講じる」だけでなく、「相談があった場合の適切な対応」「不利益取扱いの禁止」「プライバシー配慮」「再発防止」を含めた一連の運用を求められます。体制整備が不十分なまま事案が顕在化すると、企業責任が問われるリスクがあります。
主なハラスメントの種類と特徴

パワーハラスメント(パワハラ)
職場のパワーハラスメントの典型例として、厚労省は6類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)を示しています。典型的な6類型に該当する言動であっても法的な3要素を満たさなければハラスメントと認定されない場合があります。対応の際には、法令や国の指針をベースに社内における具体的な禁止基準や処分内容を定め、それに則って運用することが求められます。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクハラは「性的な言動」によって就業環境が害される等の問題で、男女雇用機会均等法に基づき事業主の防止措置が義務です。また、冗談のつもりでも周囲や本人は不快に感じている場合、本人の意思や受け止めが尊重される場合があるため注意が必要です。(※2)
マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントは、育児・介護休業法等に基づき事業主の防止措置が義務です。制度利用を理由とする不利益取扱いや、制度利用を妨げる言動は、企業として厳格に扱う必要があります。
カスハラ、就活中のセクハラ等その他のハラスメント
加えて近年は、国の方針として以下の領域のテコ入れが求められています。
「カスタマーハラスメント」
顧客等からの著しい迷惑行為で就業環境が害される。
詳しくは以下ページをご確認ください。
「求職者等に対するセクシュアルハラスメント」
採用選考・インターン等の場面で起きるセクシュアルハラスメント。
いずれも“現場の我慢”に委ねるのではなく、会社として方針を示し、相談窓口と初期対応の型(記録→線引き→対応終了の宣言→引き継ぎ等)を整え、再発防止まで運用することが前提になります。国はこれらの防止措置を事業主の義務として位置づけており、企業側は早期に実務設計を進めることが重要です。
ハラスメントと判断される基準
優越的な関係に基づく言動とは
パワハラの「優越的な関係」には、上司・部下に限らず、専門性、経験、職場の多数派、業務上の立場なども含まれます。つまり、形式上の役職が同じでも、実質的に抵抗や拒否が難しい関係性があると、優越性が認められやすくなります。
業務上の必要性と相当性の考え方
「業務の適正な範囲」を超えるかどうかは、目的があっても手段が過剰であればハラスメント認定される点が重要です。例えば、指導の必要性がある場合でも、「人格否定」「公開の場での過度な叱責」「長時間に及ぶ詰問」などは、相当性を欠くと評価される可能性があります。
「指導」との違いはどこにあるのか
指導は、業務の目的と基準が明確で、改善可能な行動に焦点を当て、相手の尊厳を損なわない形で行われます。一方、ハラスメントは、相手の人格や存在を傷つけ、逃げ場を奪う形になりやすいと言えます。
実務では、「目的(何を良くしたいか)」「基準(何が期待か)」「手段(どう伝えるか)」を分けて整理すると線引きしやすくなります。
ハラスメント法制化 -主な法令と企業の義務-
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)のポイント
いわゆる「パワハラ防止法」は、労働施策総合推進法における職場のパワハラ防止措置義務(雇用管理上講ずべき措置)を指して語られることが一般的です。具体的な措置の内容は指針(告示)で整理され、方針の明確化・周知、相談体制整備、迅速かつ適切な対応、プライバシー配慮、不利益取扱い禁止等が含まれます。
セクハラ・マタハラ(男女雇用機会均等法・育児介護休業法)
セクハラは男女雇用機会均等法、マタハラ等(妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)は育児・介護休業法等に基づき、事業主に対応が求められます。
特にマタハラは「ハラスメントか否か」だけでなく、不利益取扱いの論点とセットで整理することが重要です。
事業主による不利益取扱いの禁止
妊娠・出産・育児休業の取得等を理由に、会社が解雇・降格・減給などの不利益な取扱いを行うことは認められません。
職場の上司・同僚によるハラスメント
- 雇用管理上の措置義務)として、上司や同僚の言動によって就業環境が害されることを防ぐため、企業は相談窓口の設置、秘密保持、迅速な事実確認と対応、再発防止などの体制整備を行う必要があります
企業に求められる具体的な措置義務
ハラスメント対策は、「会社自身が行ってはならない不利益取扱いの禁止」と「職場で発生するハラスメントへの防止措置」を分けて整理すると分かりやすくなります。
まず、不利益取扱いの禁止として、相談や制度利用(妊娠出産、育児介護休業等)を理由に、解雇・降格・減給など不利益な扱いをしてはなりません。次に、防止措置として、方針の周知、相談窓口の設置(秘密保持・複線化)、事実確認と被害者保護、再発防止、プライバシー配慮を整えます。
なおカスハラ等の社外事案では、加害者に懲戒等の直接措置はできないため、記録・エスカレーション・複数名対応などの組織的対応に加え、取引停止や法的措置、被害者のケア等を含む被害者支援を用意することが重要です。
最新法令から読み解く企業に求められる法的義務
相談窓口の設置と適切な対応義務
相談窓口は「設置して終わり」ではありません。相談が来たときに、事実確認、被害者保護、関係者への配慮、再発防止といった一連の流れの入口となる運用が求められます。
運用の実務に関する詳細はこちらから
不利益取扱いの禁止とプライバシー配慮
ハラスメントの相談や事実確認への協力を理由として、解雇や降格、不利益な配置転換などの報復措置を行うことは法律で厳しく禁止されています。また、相談者と行為者双方を守るため、相談内容や個人情報が関係者以外に漏洩しないよう厳格な情報管理とプライバシー配慮を徹底しなければなりません。これらが守られることで、従業員が安心して声を上げられる心理的安全性が確保されます。
対応不備が企業責任につながるケース
企業責任が問われやすいのは、以下のような企業の対応プロセスそのものが争点になるケースです。(※3)
①相談があったのに放置した
②事実確認が不十分
③再発防止措置が十分に講じられていない
④被害者が二次被害を受けた
また、最新の法制化として、カスタマーハラスメント対策と求職者等セクハラ対策が事業主義務となり、2026年10月1日に施行予定の点は、今後のリスク管理上の重要論点です。(※4)
裁判事例から見るハラスメント判断のポイント
裁判例は、「何がパワハラ認定されて、企業はどこを整えるべきか」を具体的に検討するための材料となります。厚労省のポータルサイトでは、裁判例をわかりやすく整理しているため、詳しくはそちらをご確認ください。(※5)
パワハラとして認定されたケース
パワハラとして認定された事例の一つに、「甲府市・山梨県(市立小学校教諭)事件」(上司が謝罪を強いるなどした対応がパワハラに当たり、不法行為責任が肯定された事案)があります。
このようなケースでは、業務指導の必要性があったとしても、言動の強度・継続性・公開性・人格否定の有無などが重視されやすく、「目的が正しいからOK」ではなく「手段が相当か」を点検することが重要になります。(※6)
セクハラ・その他ハラスメントの裁判事例
セクハラの判断事例としては、「広島セクハラ(生命保険会社)事件」(忘年会で上司等が保険外交員にセクハラ行為をした事案で、行為者・使用者の損害賠償責任が認められた一方、被害者側の事情も踏まえて賠償額が調整された事例)があります。
セクハラでは、本人の意に反する性的言動があること、就業環境が害されることが重要な観点になります。周囲が冗談のつもりでも、関係性や立場、職場文化によって受け止めは変わるため、社内で「許容されない言動」を具体例で示し、日常運用に落とし込むことが不可欠です。 (※7)
企業対応が不十分とされたポイント
企業対応が不十分とされやすいのは、初動の遅れと、再発防止の欠落です。相談を受けたら、事実確認→被害者保護→加害者措置→職場全体への再発防止(研修・ルール・配置の見直し)までを“セット”で設計する必要があります。
ここでの実務的な提案として、社内運用を「目的と型」で分けることを推奨します。
- 目的:被害者保護/事実確認/再発防止
- 型:受付→初期評価(緊急性・安全確保)→調査→判断→措置→フォロー
この型があることで、担当者の属人化が減り、対応のブレが小さくなります。
よくある質問
Q1. ハラスメント法制化で、企業は何が変わりましたか?
A. 「努力」ではなく「措置義務」として、方針周知、相談体制、迅速対応、プライバシー配慮、不利益取扱い禁止などを運用で実装する必要が明確になりました。
Q2. 指導とパワハラの違いをどう線引きすべきですか?
A. 目的・基準・手段を分けて整理し、手段が相当か(人格否定や公開の場での過度な叱責などがないか)を点検するのが実務的です。
Q3. 相談窓口を作れば法令遵守になりますか?
A. 窓口の“設置”だけでは不十分です。相談が来たときの初動、事実確認、被害者保護、再発防止までの運用が整って初めて実効性が出ます。
詳細はこちらの記事をご確認ください。
Q4. カスタマーハラスメント対策はいつから義務化されますか?
A. 厚労省の案内では、令和7年法律第63号の公布によりカスハラ対策が事業主義務となり、2026年10月1日に施行予定です。
Q5. 裁判例はどこで確認できますか?
A. 厚労省「あかるい職場応援団」で、パワハラ6類型などで分類した裁判例が整理されています。
まとめ
ハラスメント法制化によって、企業は「起きたら対応する」ではなく、「起きにくくする設計」と「起きたときに適切に対処できる運用」を求められるようになりました。パワハラは労働施策総合推進法に基づく措置義務、セクハラは男女雇用機会均等法、マタハラ等は育児・介護休業法などで整理され、さらに2026年10月からはカスタマーハラスメントと求職者等セクハラ対策も事業主義務として拡張されます。実務では、方針周知・相談体制・初期対応の型・プライバシー配慮・再発防止をセットで回し、裁判例が示す“企業が問われるポイント”を先回りして整えることが、最も確実な防止対策になります。
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<参考文献>
※1 厚生労働省(2019/2026参照),パワーハラスメントの定義について(3要素・6類型)
※2 厚生労働省(2026),職場のセクシュアルハラスメントについて(措置義務・関連指針の案内)
※3 厚生労働省 あかるい職場応援団(2026),裁判例を見てみよう(会社の責任が問われた裁判例等)
※4 参考文献:厚生労働省(2026),職場におけるハラスメントの防止のために(令和7年法律第63号の公布、令和8年10月1日施行)
※5 参考文献:厚生労働省 あかるい職場応援団(2026),裁判例を見てみよう(6類型等で分類)
※6厚生労働省 あかるい職場応援団(2026),裁判例を見てみよう(「甲府市・山梨県(市立小学校教諭)事件」)
※7 厚生労働省 あかるい職場応援団(2026),裁判例を見てみよう(「広島セクハラ(生命保険会社)事件」)












