【調査結果】CO2排出削減やワークライフバランス推進、汚職防止など、 企業のESG活動は従業員のストレスにどう影響するのか? ~社会関連活動は働く人のストレスにポジティブな影響~

企業向けに『はたらくをよくする®』支援事業を展開するピースマインド株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役:荻原英人、以下「ピースマインド」)は、九州大学 馬奈木俊介教授と協働し、ピースマインドが企業向けに提供するストレスチェック「職場とココロのいきいき調査®」(以下「ストレスチェック」)のデータ(*1)をもとに、企業のESG活動が、はたらく人のストレスに与える影響を分析しました。

ESG活動は従業員のストレスにどう影響するのか?

ESGとは、企業の経営や成長において、環境(Environmet)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)という3つの観点での配慮が必要だという考え方です。2015年に、世界共通の目標として、SDGs(持続可能な開発目標)が採択され、社会の持続可能性/多様性/包摂性が重視されるようになっています。企業のE,S,Gそれぞれの活動を評価し得点化(環境スコア、社会スコア、ガバナンススコア)した国際的なデータベースも構築されており、これまでの研究から、企業のESG活動と企業の経営効率/持続可能性には望ましい関係があることが示されています(*2)。SDGsが採択されて以降、投資家たちは、安定的で持続的なリターンを生む投資への関心を高めており、企業のESG活動の重要性は今後さらに高まるでしょう。 では、それら企業のESG活動は、従業員個人のウェルビーイングにはどのような影響を与えるのでしょうか。今回の分析では、ピースマインドのストレスチェックデータのうち、国際的なESG活動評価データベースとマッチした11社、約11万人のデータを活用し、企業のESG活動の状況によって、従業員のメンタルヘルスの状況に違いが見られるのかを、回帰分析という手法を用いて分析しました。

E(環境)、G(ガバナンス)活動の一部は、はたらく人のストレスを高めうる

企業のESG活動への評価は、環境、社会、ガバナンスそれぞれに含まれる具体的な下位指標への評価からなります。それら下位指標がストレスに与える影響を分析した結果が、図1~図3です。これらの図は、値が正の方向に大きくなるほどストレスを改善する効果が、負の方向に大きくなるほど悪化させる効果があることを示しています。
 

環境活動は、ストレスへのポジティブ/ネガティブな影響が混在している

環境活動では、水資源の効率利用や地球温暖化を抑制するクリーン技術などの活用を示す水問題スコアやクリーン技術活用スコア、そしてそれぞれの管理スコアが、従業員のストレス状況にポジティブな影響を及ぼしています。環境に配慮し社会に貢献しようとする企業の姿勢は、従業員の業務に対するやりがいや組織への誇りへとつながり、結果としてストレスを抑制する可能性が考えられます。 しかしその一方で、有害物質の排出/廃棄に対する制限・管理等の活動は、従業員のストレス状況にポジティブな影響を与えていませんでした。業務遂行にあたり、有害物質の排出/廃棄に対する制限・管理の重要性は理解しつつも、業務が複雑になることで業務負担が高まるのかもしれません。

【図1】環境関連の活動とストレスへの影響

企業の社会関連活動は、はたらく人のストレスを低減しうる

続いて、人権の尊重、公正な評価、多様性の推進、安全健康、労務管理、社会貢献活動などの企業の社会関連活動を見ると、労務管理や労務管理の管理は、従業員のストレス状況に統計的に有意にポジティブな影響を与えていることが見て取れます。人事/管理職が、従業員の労働状況を適切に把握し不調を予防するなどの取り組みは、やはり従業員のストレスの改善に効果的だと言えるでしょう。
【図2】社会関連の活動とストレスへの影響

ガバナンス関連活動は、ストレスにネガティブな影響を与えうる

最後に、コーポレート・ガバナンス、リスクマネジメント・コンプライアンス、情報開示など企業のガバナンスについて見てみると、有害物質の排出/廃棄に対する制限・管理と同様に、労働者のストレスに対するネガティブな影響がありうることが読み取れます。こちらについても、企業がガバナンスに力を入れる副作用として、業務が複雑になりやすく、労働者の業務負担が高まる可能性が考えられます。
 
【図3】ガバナンス関連の活動とストレスへの影響

はたらく人のストレス低減が、企業のESG活動推進に向けたポイントに

SDGsが採択されて以降、投資家たちは、安定的で持続的なリターンを生む投資への関心を高めており、今後企業のESG活動は、さらに重要性を増すものと思われます。しかし、今回の分析の結果、企業のESG活動のうち、E(環境)の有害物質の排出/廃棄に対する制限・管理の活動や、ガバナンスの活動は、労働者のストレス状況にネガティブな影響を与える可能性が示されました。メンタルヘルスについての先行研究では、従業員のストレス状態は、離職や休職といった人材の定着と深いつながりがあることが示されています。(*3、4)そのため、企業として、今後も継続的にESG活動に取り組んでいく上では、それら活動と並行して、従業員のストレス状態の悪化を防ぐ活動が必要になってきます。 S(社会)の労務管理についての活動が、従業員のストレスを軽減する可能性とあわせて考えると、人事/管理職が従業員の労働状況を適切に把握し、必要に応じてケアすることや、従業員自身もストレスをうまくマネジメントするスキルを高めることが、企業としてESG活動を推進する際のポイントの一つと言えるでしょう。
今回の調査では、労働者のストレスという観点から、企業の安定的・持続的な経営のポイントを示しました。今後もピースマインドでは、企業の長期持続的な成長、さらには持続可能な社会づくりに寄与する研究、ソリューション開発、サービス提供を進めて参ります。

 

【リサーチ・アドバイザー 九州大学馬奈木俊介教授のコメント】

ESG、SDGsだからなんでも良いというのでなく、活動をしていくに従い、良い面、悪い面も出てきます。社内ガバナンスの点からも、社員の方々の働きやすさと企業の成長の両立を目指していくことが求められます