【約27万件のストレスチェックデータから、はたらく人のストレスを悪化させる要因を分析】
テレワークなど新しい働き方に適応するために必要な取り組みとは

企業向けに『はたらくをよくする®』支援事業を展開するピースマインド株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:荻原英人、以下「ピースマインド」)は、ピースマインドが企業向けに提供するストレスチェック「職場とココロのいきいき調査®」(以下「ストレスチェック」)約27万件のストレスチェックデータに基づいて、はたらく人の心理的ストレス反応を悪化させる要因を分析(以下、「本調査」)しました。

調査の背景~はたらく人の心理的ストレス反応の要因は何か~

コロナ禍によるウェルビーイングの変化
2019年12月初旬から3年以上にわたる世界的な流行となった新型コロナウィルスは、日本を含む世界の経済活動に大きな変化をもたらしました。ピースマインドが実施したコロナ禍におけるウェルビーイングに関する調査(※1)では以下の結果が出ています。

コロナ禍 2019-2020年
2019-2020年にかけては、業種による差もありますが、心理的ストレス反応自体は良化する傾向にありました。これは、店舗での販売や物流関係など対面での対応が必須の職種では、政府からの時短営業要請など業務に制限が加わることで、業務量が減少したことにより業務自体の負荷が減ったことが理由の一つと考えられます。また、出社率の低減要請に応じるためのテレワークの推奨により、対人面での負担を感じにくい環境ではたらく人が増えたことも理由の一つと考えられます。

Withコロナ 2020年-現在
2020年から2021年にかけてはWithコロナ時代に突入し、感染防止策を講じつつコロナ前の働き方に戻る人が増えてきました。その結果、前年度軽減されていた仕事上の負担が元に戻り、心理的ストレス反応は従来のレベルに戻りつつあるようです。また、コロナ禍前後で、働き方やはたらく人のウェルビーイングに様々な変化がありました。本調査では、働き方の多様化により生じるはたらく人のストレスについて、これまで考えられてきたストレスモデルだけにとどまらない要因や影響についてお伝えします。

はたらく人の心理的ストレス反応のメカニズム
はたらく人のストレスは国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)のストレスモデルで表されます。このモデルをベースに、ストレスチェックでは、はたらく人の心理的ストレス反応の背後要因として、仕事の負担や緩衝要因となる仕事の資源といった職場環境要因を想定します(図1)。

 

【図1】職場環境要因が心理的ストレス反応に影響を与えるイメージ

 

つまり、今回のような心理的ストレス反応悪化の背景にも、ストレスチェックで測定される職場環境各尺度の経年変化と関係があると考えられます。
 

 

職場環境以外の要因とは?
-テレワークをきっかけに浮き彫りとなった要因Xの存在-

これらのストレスチェックで測定される職場環境要因以外に、労働者の心理的ストレス反応に影響する要因は無いのでしょうか。実際にストレスチェックで測定される職場環境要因の直接的な影響を取り除いて分析をしました(図2)。

 

【図2】職場環境要因の直接的な影響を取り除いたときの心理的ストレス反応の経年変化

 

その結果、職場環境要因の直接的な影響を取り除いたとしても、心理的ストレス反応が良化している人と悪化している人が存在していることがわかります。また、全体としてはわずかながら悪化傾向にあるといえるでしょう。

つまり、職場環境要因以外に、従業員の心理的ストレス反応を悪化させる要因Xが存在することが考えられます。そしてこの要因Xの影響は、今回影響を取り除いた職場環境要因によって変わってくることも考えられます(図3)。
 

【図3】職場環境要因の直接的な影響を取り除いたときに、
心理的ストレス反応に影響する要因Xイメージ

 

 

テレワークなど新しい働き方が心理的ストレス反応に影響する可能性が明らかに
ストレスチェックで測定される職場環境要因の影響を取り除いたデータ(※2)を、心理的ストレス反応が改善傾向にある群と悪化傾向にある群とで比較したところ、以下の項目に大きな差がでました(図4)。

 

【図4】心理的ストレス反応改善群と悪化群で有意な差が見られた職場環境尺度

 

テレワークなど互いの働きぶりが見えにくい環境において上記の項目を改善することで、はたらく人の心理的ストレス反応を軽減する効果が期待できます。

例えばテレワークでは、コミュニケーション頻度が低下することで会社の行く末や自身の評価への不安が高まるという声をしばしば聞きます。そのような中で、各自の価値観や裁量、建設的な挑戦を認めながら変化に対応しようとしたり、変化の中でも公正な態度で業務を評価する職場では、会社の行く末や評価への不安は軽減され、心理的ストレス反応が生じにくくなると考えられます(図5)。

 

【図5】心理的ストレスの少ない職場づくりのポイント

 

 

テレワークの悪影響を軽減するわけ

それでは、なぜこのような姿勢によってテレワークなど業務状況が見えにくい働き方への悪影響が軽減されるのでしょうか。

この結果は、心理学における期待理論の考え方で説明できます。これまでのモチベーションについての研究では、人はある行動が特定の結果を生むかどうかの期待である結果期待と、自分がその行動をできると思うかどうかである効力期待によって、モチベーションが左右されることが示されています。

例えば、 「職場内のコミュニケーションの工夫で良いチームがつくれる」 というのは結果期待ですし、「自分は、頻回な1on1ミーティングなどの工夫を通じて、職場内のコミュニケーションを活性化させられると思う」というのは効力期待です。これらの期待が揃うことで、人はモチベーション高く仕事に取り組めると考えられています(図6)。また、困難な状況に際しどんな行動をしても想定した結果を得ることができず、「どうせやっても無駄だ」という信念が学習されてしまう(=結果期待が低下してしまう)ことで意欲が低下する現象のことを学習性無力感と呼びます。この学習性無力感は、慢性的な抑うつ状態を説明する理論モデルの一つです。

 

【図6】期待理論モデル(Bandura, A. (1997) (※3)を参考にピースマインドが作成

 

これらの現象や理論を今回の分析結果に当てはめてみると、テレワークなど新しい働き方のもと、業務上の難しさが生じても、職場として各自の価値観や裁量が認められていたり、失敗を認めるような風土があることで、各自がそういった環境への適応方法を模索できると思われます。そして、業務上の難しさが生じている環境への適応方法を主体的に模索できることで結果期待が高まり、心理的ストレス反応へのネガティブな影響が軽減された可能性が考えられます。

 

 

テレワークなど新しい働き方に適応するために

本調査の結果、テレワークをはじめとした多様な働き方に適応していくためには、各自の価値観や裁量、建設的な挑戦を認めつつ変化に対応しようとする風土や、変化の中でも公正な態度で業務を評価するマネジメントの姿勢が重要になる可能性が示されました。

そしてそういった風土を作り上げるためには、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態である心理的安全性や、組織内でメンバーが大切にしている価値観や考え方が共有されている状態である相互理解が不可欠です。期初などにチームビルディングを行い、各自が話せる範囲でお互いが大切にしたい価値観や最近の関心ごとについて、周囲に共有する機会を設けておくと良いでしょう。

また、業務状況が見えにくい中でも公正な業務評価を実現するために、部下との適切なコミュニケーションを行うことも大切です。コミュニケーションの際は、部下の現在の業務状況はどうか、問題があるならばどのような問題で、部下はそれをどうクリアしようとしているのかといった仕事の側面と、そういった状況に対して部下はどう感じているのかといった気持ちの側面の両方を捉えていく必要があります。


特に管理職の方においては、今回のコロナ禍でリモート下でのコミュニケーションの難しさを実感された方も多いのではないでしょうか。業務状況が見えにくくコミュニケーション機会が限られた中でも、上記のようなコミュニケーションを行えるよう、日常から管理職としてのコミュニケーションスキルを高めておくことが大切です。

今回ご紹介した上記の概念は、これまでにもその重要性が説かれてきたものばかりです。テレワークなどの新しい働き方が定着した企業も多くあるかと思いますが、そういった企業ではこれらの概念はますます重要になると言えるでしょう。改めて上記概念に関する状況を確認し、メンテナンスしてみてはいかがでしょうか。

今後もピースマインドでは、はたらく人と組織のウェルビーイングに寄与する研究とソリューションの開発・提供を進めてまいります。

 

※1:【調査分析】約30万件のストレスチェックデータを分析 ~コロナ禍前後3年間の推移~
https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/359

※2:2019年~2021年の弊社ストレスチェックデータの中で、欠損値を除外し3年分のデータがあるサンプル合計約27万件を用いています。今回の分析手法は回帰分析で、ストレスチェックの各職場環境尺度の心理的ストレス反応に対する直接的な影響を取り除いた上で、2020年から2021年にかけて心理的ストレス反応が改善した群(上位10%)と悪化した群(下位10%)の職場環境尺度の得点を比較しました。

※3:Bandura, A. (1997) : Self-efficacy: The exercise of control. New York : W.H. Freeman

【参考情報】


 

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【プレスリリース】2023-04-13_【約27万件のストレスチェックデータから、はたらく人のストレスを悪化させる要因を分析】