パワハラ相談は、判断の基準が難しい
ニュースなどを通してパワハラ問題を目にする機会が増えたり、パワハラ防止研修を実施する企業も大変多くなりました。それが奏功してか、一昔前に横行していたような、叩く・蹴るといった明らかなパワハラ行動は少なくなりました。一方、「不適切な行為ではあるが、パワハラとは言い切れない」という、いわゆるグレーなケースは非常に多くなっています。その理由には、パワハラの定義は解釈の幅が広く、また法的な罰則規定もない、ということが挙げられるでしょう。また、就業規則にパワハラに関する明確な規定がないという企業も多く、企業側としては弁護士や社労士に相談しながら悩ましい判断を迫られ、このような形で着地させることがよくあるのです。
ハイパフォーマー上司によるハラスメント行為
6分類の中では、ハイパフォーマー上司が部下に対して、結果を出すためにと無理な残業を強いたり(精神的な攻撃)、配慮のない言葉がけを続ける(過大な要求)といったケースをよく目にします。業績面で高い評価を受けている上司は、たとえ部下から不満の声があがっても、「きちんと結果を出しているのだから」と自分の言動を肯定しがちで、パワハラ行為にあたるという自覚なしに行っているという人が多いです。
このようなケースに対応する際、会社側は「不適切な行動はきちんと指摘した上で改善してほしい」と思う一方で、「これを指摘したことで、ハイパフォーマー上司との関係性がこじれて退職されてしまうようなことがあれば、貴重な人材を失い、業績も悪化して…」など、様々なリスクにも思いを巡らせるでしょう。これらのリスクを回避するためには、穏便に済ませたいという気持ちも本音であり、二の足を踏んでしまいがちです。
しかし、実はこれらを見過ごすことのリスクも相当なものがあります。例えば、モチベーションの下がった部下が次々と辞めていけば、採用・育成のコストが発生しますし、適切に対応していないことを部下によってSNSなどで拡散され、企業の評価を大きく落としてしまうことも想定されます。
これらのコストを換算すると、この問題は見て見ぬふりをせずに取り扱うべき重要な問題であることが理解できると思います。
パワハラの申し出を受けたら、まずは事実確認
パワハラを受けていると従業員から申し出を受けた場合、人事労務担当者は、先ずハラスメントを受けた人(ハラッシー)から、「いつ、どんなことがあったのか」というできるだけ客観的な事実を正確にヒアリングします。そのあと、その申し出内容を確認するために、パワハラを行ったとされる人(ハラッサー)や、パワハラ行為を目撃している可能性がある周囲の社員からも事実確認を行います。誰かに肩入れしたりせず、事実がどうだったのかを整理することに注力します。
ハラッシーからの相談では「本人がどうしたいか」を確認することが重要
申し出たハラッシーの思いを聞くと、「訴えたい!」「辞めさせたい!」「異動させたい!」とハラッサーに向けて感情が高ぶっている人もいれば、「自分は会社を辞めるつもりだが、他に同じような思いをする人がいないように、ハラッサーの行動改善を求めたい」「今後も会社で働き続けることを考えて、異動を希望したい」「大ごとにしたくはないが、このような事実があったことだけは会社に伝えたい」という方もいたりと、温度感は様々です。
パワハラを受けた直後は誰しも感情的になり、その後のことを想像できていないことが多いです。例えば、最初は「辞めてパワハラ訴訟を起こす!」と憤っていた方も、それによって生じる自分のメリット・デメリットを考えると、「やっぱり今後も職場に残って仕事を続けたい」と心変わりすることもあります。ハラッシーからの相談対応は、事実関係の確認と並行して、「本人がどのようにしたいか」を折々に確認したり、一緒に考えていくことが大切です。
未然に防ぐには…
パワハラに繋がる行動を会社が未然に防ぐために、どのような方法があるかを考えてみましょう。
ストレスチェックの組織分析や360度多面評価など、既に会社で取組まれている組織分析を活用する方法があります。
例えばストレスチェックの組織分析の結果で、高ストレス者の多い部署があったら、上司や社員に対して職場環境に関するヒアリングをしてみましょう。もし、パワハラに繋がる不適切な行動が認められた場合は、まずは、本人にフィードバックして注意を促しますが、その際のポイントは、客観的な事実を伝えるということです。例えば、「5名から“連日のように時間内には終わらない過大な業務を要求されている”というヒアリング結果でした」のように伝え方です。
一定の期限を設けて行動の改善を促し、それでも十分な改善がみられない場合は、EAP会社が実施するカウンセリングやコーチングの利用をすすめてみるのも一案です。社内関係者同士だと、感情面が先に立って、本人が行動を変えることに頑な態度を取ってしまうこともあります。あえて社外の専門家が介入することで行動改善だけに注力することができ、効果を期待できます。