【調査分析】コロナ禍で、はたらく人は何に悩んでいるのか? ~コロナ禍で相談件数は51%増加。従業員支援プログラムに寄せられた、はたらく人の相談12,545件の傾向分析~

企業向けに「はたらくをよくする®」支援事業を展開するピースマインド株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:荻原英人、以下「ピースマインド」)は、コロナ禍以降、従業員のストレスや悩みがどのように変化したか実態を明らかにするため、「コロナ禍における従業員支援プログラム相談傾向分析調査」(以下「本調査」)を実施しました。

「コロナ禍における従業員支援プログラム相談傾向分析調査」実施の背景

世界を襲ったコロナ禍において、日本の生活環境、就労環境は大きく変化しました。VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)という言葉が注目を浴びる今日、コロナ禍により、まさにVUCAが現実のものとなりました。急速な環境変化により、対面コミュニケーション減少、テレワーク勤務、各業務のオンライン化・遠隔化・デジタル化といった、新たな施策や働き方が十分な準備期間なく強いられ、メンタルヘルスの観点から、断続的な変化への耐性が求められています。
コロナ禍前後でピースマインドに寄せられた相談件数は増加傾向にあり、また相談内容の傾向にも大きな変化がありました。そこでピースマインドでは、多くのはたらく人およびご家族からの相談を受けるメンタルヘルスの専門企業として、コロナ禍前後でのストレス動向の変化を明らかにすることを目的に、本調査を実施しました。

コロナ禍で相談件数は51%増加

はじめに、コロナ禍以前である2019年度の相談件数と内容を、年度初頭に新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言が発令される事態となった2020年度、さらにコロナ禍が長期化している2021年度上半期と比較し、統計的な分析を行いました。その結果、2021年度上半期の相談件数は、2019年度の同時期に比べて51%増加したことが分かりました(図1)。相談内容を大きく「職場」と「プライベート」に分け、統計的な分析を行った結果、「職場」、「プライベート」に関する相談が共に増加したことが示されました。

【図1】コロナ禍前後(2019年度、2020年度、2021年度上半期)の相談件数(セッション数)割合

コロナ禍のインパクトが生活のあらゆる側面に及んでいる可能性

2019年度から2021年上半期までの相談件数のうち、「自分のメンタルヘルス」の件数は、統計的に有意に増加し、「職場のストレス」、「仕事上の対人関係」、「家族・パートナー関係」、「休職・復職問題」と続きました。いずれも2019年度上半期のコロナ禍前と比して高い増減率であることから、新型コロナウイルスにより、「仕事」と家族・ パートナーとの関係といった「プライベート」両面への影響が顕著であることが示されました(表1)。

【表1】2021年度上半期に件数が顕著に増加した相談内容

コロナ禍以後、「家庭」にまつわる相談件数は減少傾向

相談件数が大幅に増加した相談内容がある一方で、件数が有意に減少した項目があり、とりわけ「家庭」にまつわる相談内容に関する件数の減少が目立ちました。「子どもの教育問題」と「職場の対立関係」に関する相談が21%減少、続いて「金銭問題」が11%減少、「育児の問題」が6%減少、「仕事と家庭の両立」「家族・パートナーの身体的健康」には増加も減少も見られませんでした。(表2)
 
「仕事と家庭の両立」と「家族・パートナーの身体的健康」は、コロナ禍の2020年度内は一旦減少に転じましたが、2021年上半期ではコロナ禍以前の2019年の水準となりました。出社勤務日の増加との連動や、コロナの長期化で生じる「家族のコロナ疲れによる心身への影響」との関連が推察されます。これらの結果から、テレワークは、家庭内のワークスペース確保や外出制限による家族や子どもとの生活リズムの違いによるぶつかり合いといった家庭の問題を引き起こす要因となり得る一方で、従前バランス維持が難しかった「仕事と家庭の両立」や、「子どもの教育・育児問題」への対処を容易にする要因、たとえば家族と接する時間が持てる、通勤時間減等の時間的効率性向上といったメリットが影響している可能性が窺われます。
 
「職場の対立関係」については、コロナ禍において一旦減少しています。これはテレワークにより対立関係者との直接的・物理的接触の減少が影響している可能性があります。しかしながら、全体としては、「仕事上の対人関係」の相談件数は増加していることから、テレワークによって生じた物理的な距離は、一時的な対人関係改善であったことが予想されます。実際に、女性管理職比率の高さに伴う従業員のウェルビーイングの変化を、直接効果と間接効果に分けて分析してみると、女性管理職比率が高くなることに伴って、直接的に従業員のウェルビーイングが高まるというよりは、従業員の職場環境が変化し間接的に従業員のウェルビーイングが高まる可能性があることが明らかになりました。(図3)
【表2】2021年度上半期に件数が顕著に減少した相談内容

相談内容のキーワードは「仕事」と「プライベート」の相互関係

相談内容や件数の変化をさらに深堀すべく、2020年度の相談内容記述をベースに、単語の頻出度や関係性の分析(テキストマイニング)を行いました(図2)。その結果、中核となる単語は「仕事」であることが明らかとなりました。また、この「仕事」を取り巻く主な関連単語として、「仕事」と「上司」、そして、「仕事」と「自分」「思う」「言う」、さらに「仕事」と「不安」、「仕事」と「家族」「妻」が示されました。つまり、コロナ禍は、「仕事」に大きな影響を直接及ぼしたこと、また、「仕事」をする上で、自分の思いを伝える難しさを抱え、かつ「上司」との関係に悩む傾向があったことが窺われます。また「コロナ」という単語に中心性が示されたことからは、コロナ自体が相談内容のトピックとして挙がっていた可能性も推察されます。

【図2】2020年度の相談記録テキスト分析結果

次に、コロナ禍の長期化による変化を検討するため、2021年度上半期の相談内容をテキスト分析したところ、依然「仕事」に関する頻出度合いは高いものの、とりわけ「上司」という単語に中心性がハイライトされ、さらに「仕事」と「ストレス」、「上司」と「言う」「チーム」の関連性が示されました(図3)。2020年度との比較では、新たに「妻」「できる」に中心性が示され、「相談」「家族」との関連も明らかとなりました。また「問題」「不安」という単語の中心性の高さからは、2020年度に登場した「コロナ」自体というよりも、コロナによる「問題」「不安」が悩みの核である可能性が考えられます。
こうしたことから、コロナ禍の長期化においては、「仕事の質量の適切な調整」、「上司を中心とした対人関係改善」、「コミュニケーション力向上」が、従業員のメンタルヘルスの悪化防止のキーワードであるとともに、企業では介入が難しいながらも、業務パフォーマンスに大いなる影響を及ぼしかねない「プライベート」な部分、とりわけ、「家族・パートナー関係」に関する支援が、一層求められると考えられます。

【図3】2021年度上半期の相談記録テキスト分析結果

コロナ禍におけるピースマインドのEAP(従業員支援プログラム)相談事例

調査結果を踏まえ、相談内容の一部事例とその対応を紹介します。
※本事例は相談頻度の高かった特徴的内容を個人の特定ができないよう倫理上の配慮をした上で掲載しています。

<事例①>
コロナ禍の出社対応についての上司の言動に不信感 ⇒不安や怒りの原因整理と安全に働くために必要な対策の検討

  • 相談の背景

コロナ禍でテレワークが推奨される中、業務性質上、オフィスへの出勤をせざるを得ない状況であった。 報道では無症状感染者がいるなど不安な情報ばかり。会社は時間制限や距離、業務上接する相手への消毒依頼など一定の基準を設けているが、自分がいつ感染するかもしれないと思うと不安でたまらない。 こうした心理的不安の中、感染を疑わせる顧客を接客せざるを得ない状況となってしまった。上司に報告したところ、「早く帰って」と、まるで感染者扱いをするような態度で接してきたことがきっかけで、「上司はおかしい、この会社は信用ができない」と、気持ちが収まらず相談をした。

  • 対応

相談者の不安感、上司の対応に対する気持ちを共感と共に丁寧に伺い、安全に働くために必要な対策を人事部門の方や産業保健スタッフと話し合ってみること、その動きを当社カウンセラーと共に進めていくことを提案。後日、人事部門の方からPCR検査や一定期間の休養などの対応がなされたことを確認した。最後に相談者と、今回の不安や怒りの原因を改めて整理し、相談終結となった。

 

<事例 ②>
コロナ禍の新入社員が心身の不調に ⇒ 休職から復職するまでの伴走支援

  • 相談の背景
コロナ禍の真っただ中に入社。入社初日からテレワークで、所属部署の上司、同僚も実際には会っていない。オンラインで入社研修、配属先の業務OJTが始まったが、業務はわからないことだらけ。誰に尋ねたらよいか、誰を頼ってよいかわからない。
上司は穏やかな人だが、常に忙しそうで、質問したら邪魔をしてしまうのではないか、入社早々できない人間だと思われるのではないかと苦悩し、耐えてきた。数か月後のある朝、布団から出られなくなった。食欲も低下しやる気もしない。寝る前に明日どうしようと不安が頭をグルグル回り、寝付くまでに数時間かかり、更に悪夢をみるようになった。どうしたらよいのかわからず相談をした。
 
  • 対応

入社早々にテレワークとなったことによる人間関係を構築する難しさや、見えない相手とのコミュニケーションの難しさを共感すると同時に、心身の健康状態について確認。医療機関の早急な受診を推奨した結果、受診後休職に至り、休養に専念することになった。一定期間休養後、カウンセリングを再開。主治医や産業医の復職に対する医学的見解を確認の上、再発防止の検討、および、テレワーク下でのコミュニケーションを円滑にするための取組みを行い、無事復職。復職後の安定勤務を確認し、相談終結となった。

 

<事例③>
コロナ禍の急なテレワークに在宅環境整備が追いつかないストレス ⇒ 家族間で摩擦が生じるメカニズムの検討と対策支援

  • 相談の背景
緊急事態宣言が発令され、突然のテレワークが始まった。自宅には自室がなく、二人の子ども達も学校が休校となり自宅で過ごし、妻もテレワークとなった。突然のことで、自宅内に就業する場所がなく、急遽、居間のインテリアを変えて仕事場所を確保した。しかし、客先との連絡中やオンライン会議中に、子ども達が騒いでいる時があり、つい子ども達を怒ってしまい、怒った後に自責を感じてしまう。こうした中、自分が安らぐ時間の確保できない上に、妻との関係も悪化。妻の言葉にストレスを感じ、出社業務を推奨されていないにもかかわらず、出社をして業務するようになった。妻も同様のストレスを抱えているようであり、仕事も夫婦関係も子育ても八方ふさがりとなっている。
 
  • 対応

まず、相談者と妻双方のストレスを低減させるため、自分の時間や仕事のスペースが確保可能な近隣のコワーキングスペースの利用を一緒に検討し実践。その結果、妻のストレスはやや和らぎ、子どもへの影響は低減するも、妻との関係に依然課題がみられた。カウンセリングでは、妻との間で摩擦が生じるメカニズムを検討し、互いがパーソナルスペースを必要としていることを認識。夫婦間での境界線の必要性を説明し、コミュニケーション方法を検討した。次第に妻との関係も落ち着いたことから、相談終結となった。

 

ウィズ/アフターコロナで企業と従業員に有効な施策とは

上述の事例①では、コロナ禍における安全健康面に関する施策が周知されたことは有効であった一方で、上司のちょっとした対応が、従業員の不安を惹起する形となってしまったことが窺われます。事例②においては、これまで対面のコミュニケーションで身に着けてきた人間関係構築方法がテレワーク下では通用せず、あらたな環境での人間関係構築の難しさが浮き彫りとなりました。また、上司や周囲が、相談者の苦悩を早期に把握できず、対策が遅れてしまったことで、ストレスが身体症状に影響を及ぼすまでに至ってしまいました。事例③については、急なテレワークへの移行で、自宅での就業環境が整わず、また、急な生活リズムの変化から夫婦関係が悪化、子どもへの影響へと発展してしまう事態となりました。これらはコロナ禍という特殊な状況の中で生まれてきた課題の一部であると言えます。ここで、相談の中から窺えた、ウィズコロナ、アフターコロナにおける企業とその従業員、双方に有効と思われる施策を以下にまとめます。

 【メンタルヘルスの観点からウィズコロナ、アフターコロナにおいて企業として有効な施策】

  • 一次予防(発生予防)
  • 状況変化に応じた情報を適時こまめに発信し、変化への不安を逓減すること
  • 急な環境変化に柔軟に適応するための、従業員の心理的柔軟性やレジリエンスの向上を推進すること
  • ラインケアを強化し、従業員の心理的安全性を担保し、対人関係改善を図ること
  • テレワーク中の異動者、入社者に対しては、こまめなコミュニケーションと適切なラインケアの実施をすること
  • テレワークを前提に、個々の従業員が発信型かつ意識的なコミュニケーション方法を身に着けること
  • 家族・パートナー関係が及ぼす業務パフォーマンスへの影響を予防するため、外部相談リソースの確保と提供
  • 二次予防(早期対処)
  • 従業員の身体的安全性に関する各施策を適時周知し、心理的不安逓減と早期対処の準備をすること
  • こまめなラインケアの実施を推奨し、心身不調者の早期発見と対処に心がけること
  • 三次予防(再発防止)
  • 心身不調者に対しては、早めに医療を中心とした専門家と連携すること
  • 休養・休職者の復帰時は、コロナ禍の特徴的な傾向を踏まえた再発予防策の検討を十分行うこと

 
本調査では、コロナ禍による「仕事」「プライベート」両面での負の影響が反映された結果となりました。他方、新たな生活様式、とりわけテレワークにより、家族関係、仕事と家庭の両立、職場での人間関係改善といった正の要因がある可能性が示唆されました。
従業員の仕事とプライベート両面の課題解決のサポートを含めたメンタルヘルス対策や職場のコミュニケーションの改善策を実施することは、サスティナブルな企業活動を支える上で大変有益なものとなるでしょう。
 
今後もピースマインドでは、はたらく人と組織のウェルビーイングに寄与する研究、ソリューション開発、サービス提供を進めてまいります。


【調査概要】
調査対象期間 : 2019年4月~2021年9月
調査方法 : 当社EAP(従業員支援プログラム)サービスの利用実績から、今回の調査に適合するものとして抽出した12,545件の相談内容を対象にコロナ禍前後の変化を分析
調査実施者 : ピースマインド EAPコンサルタント 
後藤麻友(公認心理師・臨床心理士・国際EAPコンサルタント(CEAP))
黒田隆太(公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー)
岩﨑優里(公認心理師・臨床心理士)

【参考情報】

  • ピースマインドのEAP(従業員支援プログラム)

https://www.peacemind.co.jp/service/eap

  • 【調査分析】ストレスチェックから見える年代別ストレス度と要因分析 ~意味づけに悩む20代と、責任や負担が重くなる30代~

https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/315

  • 【調査分析】日本における外資系企業のメンタルヘルスサービス利用調査 ~「ハラスメント」相談は、日系に比べて3倍以上も~

https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/310

  • 【調査分析】with/afterコロナの働き方で求められるストレス対処法とは? ~「感情的な発散」よりも「前向きな思考」が鍵

https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/303


【取材等のお問い合わせ先】
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メール press@peacemind.co.jp
担当 末木
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【プレスリリース】2021-11-04_コロナ禍で、はたらく人は何に悩んでいるのか?~はたらく人の相談12,545件の傾向分析~.pdfリッチテキストを入力してください